それは近くのニキ散髪屋という所だった。ニキのおっちゃんは調子乗りだった。
ある日のこと。
ヤスから散髪が始まった。ヤスも僕も野球少年だったので、丸刈りである。
するとニキのおっちゃんは言う。
『ヤスは巨人ファンやな?ほな、巨人のマークに散髪したろ♫』
ヤスは大の巨人ファンで、巨人の帽子を被っていて、それを見ておっちゃんは言ったのだ。
ヤスは『ほんまー?』
と嬉しそうに言った。どちらかと言うと、僕らはアホな子供だった。
アホ度で言うと、僕はヤスより上だった。
ちなみに宇治田原キューピーズでは、ヤスはファーストで4番あたりを打ち、僕はレフトで8番だった。
しかしアホ度で言うと、僕はダントツで4番バッターだ。
散髪が終わり、ヤスの頭を見ると、丸刈りの上に綺麗なGのマークが出来ている。
どや?とニキのおっちゃんはドヤ顔で言う。
ヤスは、やったー!と喜んでいた。結構なアホである。
次は僕の番で、僕は阪神ファンで、阪神の帽子を被っていたので、阪神マークだ。
話は横道にそれるが、僕は結構な阪神ファンで、おまけにアホが二つ重なるくらいのアホアホだったので、
毎朝、阪神の所の新聞記事を丁寧に切り抜いて、小学校の黒板に貼っていた。
その頃、阪神はサヨナラ試合が多くて、川藤選手や竹之内選手が活躍していた。
最初、先生も、誰や黒板にこんなん貼ったん?!と怒り気味で言っていたが、途中から何も言わなくなった。
アホに言うても仕方ないと思ったのだろう。
先生も阪神ファンだったらしく、機嫌の良い時は、黒板の新聞を見て、
『昨日も川藤でサヨナラか?』
と言ってくれる時もあった。
先生も、新聞を外すのが面倒になったのか、
川藤またもサヨナラ打!
と書いた新聞を貼ったままで算数の授業をしていた。
さて話を戻す。
僕の散髪が終わり頭を見ると、丸刈りにTHのマークが出来ていた。
おっちゃんは、やっぱり調子に乗って、ヤスと僕を並んで立たせた。
『ほら見てみー!これがほんまの阪神巨人戦や!』
アホな小学生2人は、拍手をした。
ヤスは言う。
『おっちゃん、もうこのままでええわ!』
おっちゃんは見せた後、丸刈りにしようと思っていたらしいが、
ヤスがヤケに気に入った様子を見て、そうかぁ?と言ってそのままにしてくれた。
帰り際に、古そうな飴を一つずつくれた。
帰ったあとに問題が起きた。ヤスのおかんが激怒したのだ。メロスより激怒した。
すぐに、調子乗りのおっちゃんに電話が入った。
ヤスのおかん『なんやこの頭!こんな頭で学校行けへんやろ?すぐに直せ!』
僕とヤスは、またニキのおっちゃんの所へ行き、並んで綺麗な丸刈りにしてもらった。
その時のニキのおっちゃんは、いつもアホな事しか言わないのに、無言でバリカンを手にしていた。
帰り際にひとこと。
『もう阪神巨人戦は終わりやな、、、』と寂しそうに言った。
嵐山あおや