4/5、二人目のヘルパーちゃんがやってきた。
1月にヘルパーを変えたときに、住み込みをやめて外に住まわせることにしたので、勤務時間が減ったんである。
それを補うためだったのだが。

4/6、もう辞めてしまった。

ダンナの知り合いの日本人が帰任するからと紹介された人で、ムスメへのあたりも柔らかく、一人目のヘルパーちゃんともうまくやっていけそうで一安心したのだが。

猫が噛みついたんである。

初めての事件ではない。
今いるヘルパーちゃんは、すでに四回も噛みつかれひっかかれて、病院に行っている。
しかし彼女にだけなので、ほかの人は平気だろうと、甘く見ていた。

だって、今まで五回も引っ越そうが、そのたびに引っ越し業者が入ろうが、内装業者が入って大きな音を立てようが私の客が来ようがベビーが6人来て騒ごうが、みーーーんなに友好的なコだったのだ。おそらく100人くらいには会っているはず。
動物病院ではジェントリーだとプリンスだの称賛されていたくらいだ。

なのに、なぜヘルパーちゃん達だけ襲うんだ、兄猫よ。

「なんでかねー?」
「なんでだろーねえ…??」
「why????]

ダンナと私とペットシッターさんと3人で思案投げ首。
本気でわからない。

体調が悪いのかも、と、病院にも連れていってもらった。
便秘と言われて薬をもらって様子見、再度病院に連れてったら健康体をお墨付き。
フェリウエイという猫の友好ホルモン的匂いスプレーを試すか、と言われていたのだが。

「ヘルパーにだけ?それじゃ効かないわ。それは猫が新しくきた人を躾けてるのよ」
…なんですと???

どうも兄猫は、ヘルパーたちにこれこれこうせい、と指示をし、気に入らないことをしたら制裁を加えているらしい。

でもどうして???
私たちにそんなことをしたことはないし、ムスメにもない。
チェンジ前のヘルパーも、三か月だけいた産後シッターも何も問題がなかった。

なのになぜこの一月からきたヘルパーちゃんには噛みつき、新しくきたもう一人にも噛みつくんだ???
しかもジーンズの上からなのにガチで流血沙汰。

「猫がずっと見張ってる、怖い」
今のヘルパーちゃん。
「ビッグインパクトフォーミー」
たった二日で辞めてしまったヘルパーちゃん。

「アイツがしっかりしないから悪い!」
ヘルパーちゃんが襲われるよー、どーしよーと相談していたらこの返事で、まったく相談相手にならなかったダンナだが、二人目のヘルパーちゃんが辞める事態になって考えを改めたらしい。
「本気で考えないといかんわ」
最初にこの事件が起きた二か月前からそう言ってるじゃねーか!!

「だって、このままじゃ兄猫は人を噛む猫になっちゃうよ」
…それは困る。
プリンスから人を襲う猫に180度チェンジだ。
でも私もこの認識が甘かったから、二人目のヘルパーを入れるのに何の対処もしてなかったのだ。

だけど…。
…猫って、躾けられたっけ???????

兄猫は今もヘルパーちゃんを監視している。
目でチロッと追いかけられる脇を、ヘルパーちゃんは抜き足差し足で通っていく。
牙をむいて尻尾がフゥっと膨らんで…

「コラァ!!!!!!!!!!!!」
怒鳴ると、戸惑ったように私を見る兄猫。
だってコイツ、家荒らしてるんですよ?とでも言いたげ。
いーんだ、ソイツは家をキレイにしてくれるいーヤツなの!
けっこ気に入ってるんだから追い払わないでよお、頼むから。

ちなみにダンナが怒鳴ったら尻尾を巻いて逃げてった。
私じゃダメらしい。
なのにムスメが叫んだらビクッとしている。

…兄猫の中ではダンナ、ムスメ、私、ヘルパーと力関係が登録されている模様。

まあとりあえず猫より人間を躾けるほうが早いだろう。

「あーたも撃退しなさいよ、少し」
「だって最初は猫になんかしたらクビになっちゃうと思ったのおおお」
「意味もなく虐待したらクビにするよ。でも襲われて黙って噛まれてろとはうちは言わない」
「どうすればいいのお???」
「あん?じゃあとりあえず大声を出して足を踏み鳴らせ」
「だって怖い~~」

そう、コヤツは猫に襲われても悲鳴をあげて私を呼ぶばかりで、何の対処も出来ないのだ。
猫が弱っちいと判断しても仕方ない。

「Baby can do. You can do!」(この英語はきっと間違っています)
ウンウン、と涙目で頷いてるが、この会話はこれで四回目だ。
「私、二年間でどれだけ噛まれるんだろう…」(契約は二年)
だからうちも頑張るけど、キミも二年噛まれ続ける覚悟じゃなくて、どーにか襲われないように対処しようと考えてくれよ…

そして夜、クローゼットから出ようとするヘルパーちゃんを兄猫がガン見。
「NO~(>_<)」
ちぃさな声で呟いて、ハンガーで床をコンコンコン。
…ダメだ、こりゃ。防犯ブザーでも持たせるか。

襲うのは私が違う部屋にいる時、ムスメと風呂に入っている時等々なので、とりあえず私が出かけるときはヘルパーちゃんも出かけさせることに。
私がムスメと幼稚園に行くときは一緒に。
私単体で出かけるときは、ヘルパーちゃんをムスメと共に弁当付きでプレイジムに放り込む。

…ヘルパーなのに家事が全く出来ないじゃねーか。
ってかなんで私がムスメだけじゃなくヘルパーの弁当まで作ってるんだ。
本末転倒なんじゃないの???

夜、私はさっさと寝たいのだが、昼間出かけてて出来なかった家事をしているヘルパーちゃんを私が監視。
私が監視してれば、あ、見回りOKね、と猫が寝てくれるのだ。

正直三日で疲れた。

どーしよー。
ヘルパーちゃんが猫を撃退する強さを頑張って身に着けさせたいが、この弱っちさではイマイチ期待出来ない。
兄猫にコイツは敵じゃないと根気良く教えたいが、私が怒鳴るくらいで学習出来る気がとってもしない。
それとも猫ごときどーってことないわってな新しいヘルパーを探すかだが、猫ごときなんていう人は雇い主も軽んじそうで心配である。変えたヤツが気に入らなかったら悲劇だし。

ああ。
人を使ってラク出来る日が私に訪れる日は遠い。













今日はファミリースポーツファンディとやらであった。
運動会である。

指定された場所は、民間の競技施設だったらしい。行ってみて初めて知る私。
真ん中にサッカーコートが、周りにトラックがある。
トドラー、二歳、三歳、四歳クラスの子供たちが一緒。

日本では運動会というと何かしら披露するようだ。
が、ムスメが何かを準備していた様子は見受けられない。
一体何をするとゆーのか。

行ってみたら、親子で遊ぶ日であった。
なるほど、だからファミリースポーツなのか…。

通常トドラークラスは保護者同伴だが、3/4はヘルパーが連れてくる。
確かに運動会の要項には、親同伴と書いてあった。
それはどうやら、ヘルパーではなく親がついてくるのよ、親が。という意味だったらしい。
by parentsにそんな深い意味があったとは。ただ保護者付きの日なのよーってだけじゃなかったのね。

周りを見ると、7割くらいの子供たちは、両親とも付いてきている。
そんなうちも私だけで行けるわけがないのでダンナも引きずってきているが、この国のおとーさん達は一体どんな仕事をしているのだろう??
子供の運動会で平日にフツーに休みが取れるのか?
ま、取れるからこれだけいるんだわな…。

その中のおんなじクラスの女の子のおとーさん。
いつもはさすがに一緒にはいられないからか、娘にキスの嵐である。
しかし、二歳くらいの可愛いの女の子に40過ぎの親父がキスしまくっている姿は、非常に美しくない。というかぶっちゃけ変質者っぽい。

私もムスメにはキスしているが、公共の場ではやめようとしみじみ思った。


トドラークラスは観戦席の反対側よー、と言われたので、ベビーカーを持っててくてく。
一歳の娘にはトラック半周だけで、すでに運動会である。
トラック脇には土に芝生ならず雑草の道が。可愛らしい花もちょっと咲いている。

「おいでおいで」
土の上を歩こうと連れてきたら、ムスメは黙ってトラックに戻ってしまった。
そういえばこのコは土の上を歩いたことがほとんどない。
なんか嫌だったらしい。どんだけ都会っ子なんだ。


天候は今にも雨が降り出しそうな曇り、温度は20度ちょっとという、まるで私のためにあるかのような天候の日だったが、二時間で疲れ果てた。
ダメだ、ムスメだけじゃなく、私にもお守りがいる。
ダンナはムスメだけで手いっぱいで、私の守りまで手が回らん。
次はヘルパーも連れてこよう。

運動会が9時半会場、10時開始、11時半過ぎには解散というやる気のなさでとっても助かった。
たぶん日本だったら、お弁当付きで一日行事なんだろう。
私にはとっても無理である。

ランチをして帰ってきて13時すぎに帰ってきて、ソッコー寝落ち。
おりしもヘルパーはビザを取りに行っていて留守。
なのにムスメは昼寝もせずメチャ元気。

「あのー、ボク午後は仕事行きたいんですけど…」
すまん、寝た記憶すらなかった…

ああ、ムスメの運動会でこれだけ疲れるんだから、子供の時分の運動会は私にはさぞかし地獄だったんだろうなあ…










一月に新しいヘルパーちゃんがやってきた。
片付けが苦手で微妙に反抗的な前のヘルパーと違い、くるくるコマネズミのように働くヘルパーちゃんだが、うちのにーちゃん猫には非常に受けが悪い。
なつっこくて誰にでもスリスリ、娘のちょっかいにも大人しく耐え、動物病院ではジェントルマンだのプリンスだの持ち上げられまくっているにーちゃん猫が、なぜか彼女を襲うんである。
噛みついてひっかいて、の流血沙汰が、二か月で三回。
ちなみに止める私も流血沙汰である。

一回目は病院に連れていき、二回目はめんどくさいから放置、その五日後にまたケガをしたので、仕方なく再び病院に。
猫を四匹飼ってるらしい女医さんは言った。
「いつも大人しい猫が短期間でこんなことするなんてありえない。虐待してるんじゃないの?」

…私は英語がさーっぱりなので、この病院は現地語⇔日本語の通訳がついている。
たぶん英語しかわかんないヘルパーちゃんは聞き取れなかった…と信じたい。
この国はヘルパーを信用しない国なのだ。

「たぶんないと思うんですけどねー」
ひっかかれて私にしがみついて泣いてる人は、わざわざ猫をいじめないだろう。
「でもこの人の何かが猫はキライなのよ」
まあ、これだけ彼女のことだけ襲うんだから、そうかと思われる。

「猫は早い動きが嫌いよ、どお?」

ん?早い????
それ、どっかで聞いたぞ。

そう、映像付きスカイプで毎週診察している私の精神科医が言ったのだ。
「彼女は、早いですね」

それは良い響きではけっしてなかった。
そして私のことも、早い、と彼は言ったのだ。


私は出来上がりはなんでもトロい。
一般的な人が必要とはしないことまで考えなえれば、物事が出来ないからだ。
必要な過程は多いのに、世の中のテンポに合わせようとすれば、自然とせっかちになる。
急いでいるのに出来上がりは遅いのが通常の状態。

常に急いでいる、というのは強迫的な状態である。
そして今の世の中は強迫的であることで社会的な成功をおさめやすい。
医者も弁護士も、強迫的な人間は非常に多い。

が、強迫的が過ぎると、私のような病人に。
しかし世間で正しいとされている姿は強迫的であるので、強迫的が過ぎて病人になったのに、強迫的であることを諦めきれない病人はとても多いと思う。
諦めないと病人から脱出出来ないのだが…。


私は新しいヘルパーちゃんがけっこう好きである。
前のヘルパーは一緒にいて、あまりにもしんどかった。
様々な事件が勃発したが、原因は私に合うかどうかではなく、子供のために私とは正反対であろう人間をピックアップしたからだと思う。
それは子供のためには悪いことではなかったと信じている。

しかし、今は楽。
以前があまりにもしんどかったので、私に合いそうな人を選んだからだ。顔も可愛かったけど。
でも、一緒にいて私が楽ってことは、新しいヘルパーちゃんは私にきっと似ているんである…。

やばい。
強迫的な人間二乗に育てられたら、娘はどーなるんだ。
最近ギャン泣きがひどいのも、私もヘルパー本人も気づかず虐待状態なのかもしれない…。

新しいヘルパーちゃんは、私には良いけど、娘と猫にはあまりよろしくないのだろーか。
猫は刃向かい、娘はギャン泣き。
…うん、やっぱり何かがよろしくない。

はあ。
どうしよっかな…。











一歳五か月になったムスメは、三月に入った頃からイヤイヤ期が到来した。

きっかけはコーンのお代わりをあげなかったこと…のような気がする。
ほかのもん食べないでコーンのお代わりだけを要求するのだが、全部食べてからお代わりにしてほしかったのだ。

「MORE~!!!!」
叫び倒すムスメ。どーでもいいけど日本語でしゃべってほしい。

「ほかのもん食べなさい」
「NO~!!!!!!!!」
そのまんまギャン泣きモードに入ったので、30分放置しておいた。
泣きすぎて咳き込み始めたので、だっこして30分放置。
落ち着いてきたので、スプーンを口に運んでみる。

「食べる?」
…無言で手を払いのけおった。小憎たらしいコやなー。

仕方ないので30分また放置していたら、しょんぼり食べ始めた。
その時点で18時半に食べ始めたはずのゴハンが20時を超えていた。
途中で欠伸するムスメ。そりゃ普段就寝時間19時半なんだから眠かろうよ。

食事はけっきょく1/3でおしまい。
ベッドに運んだらくっついて即寝だった。
あれだけ泣いたら疲れるわな。

しかし、その翌日から、NO!NO!攻撃が始まった。
着替えもNO!おむつ替えもNO!食事もNO!お風呂もNO!
…コーンの恨みは恐ろしかったらしい。
いつになったら忘れてくれるんだ。

木金土とNO!NO!攻撃をされて、私が折れ、日曜はだいぶ好きなようにさせてやった…
そしたら多少はご機嫌がなおったらしく、NO!NO!とはいうものの、一応着替えをさせてくれるようになった。
食事もずっとハンスト状態で恨みがましく1/3くらいを食べる程度だったのが、日曜夜には通常の二倍食べた。

ふう…。
泣いてるの一時間放置するのも虐待かしら?
加減がさっぱりわからん。

医者からは、全部無視もダメ、全部許容もダメ、と言われた。
なんでも中庸がよろしいようで。
一番ニガテなんだけど。

一日おきに無視を許容を繰り返したらさぞかし混乱するだろーなあ…



一月に新しいヘルパーちゃんがやってきた。
身長150センチ未満の可愛いコである。
四人子供がいる人をコをいっちゃいかん気がするが、ちっちゃくって華奢で美人さんなので、コという感じなんである。

うちは住み込み用の部屋のベッドの縦が170センチくらいしかないので、前のヘルパーも背は低かった。160センチ以上は無理。
が、前のヘルパーに非常に疲れさせられたので、次は外に住んでもらうことにした。一日24時間家にいるのと半日では、疲れ方が半分になることを期待して。
ので身長はどーでもよかったのだが、あまり存在感があるとやっぱり私が疲れそうなので、縦横ともに小さなコを選択。

そんなかわいこちゃんだが、ヘルパー一般市場では実は可愛いコは受けが悪いらしい。
奥様方が嫉妬するからだそーだ。

それはわからなくもない。
面接時、悩みに悩んだ。
でも毎日顔を突き合わせるなら、私が好きな顔の人がいいような気がする…。
家でずっと一緒にいるのは私。
もちろん中身も大事なので、履歴書を目を皿のようにして眺め、本人たちの顔も眺め、最後に候補がふたり。
ひとりは今やとってる美人ちゃん。
ひとりは子供が好きで、子供いる家庭を希望している人。

子供が好きかあ、そのほうがいいかなあ~、とだいぶ悩んだのだが、最後の決め手はやっぱり顔。
この人のすきっ歯が、私的にどうしても受け付けなかったんである。

「じゃ、可愛いからこのコ」
けっきょく外見で決定。だって一人15分の面接じゃどうせわからん。
ちなみによくあるパターンは、ダンナがこのセリフを言い、奥さんが中身を見なさい、キィ~ッ、ということになるらしい…
すまん、私のアタマは男です。
男の容姿はどーでもいいが、女の子は可愛いのが好きなんです。


そして二か月。
ダンナは言っている。
「ほかの人があんまりひどいから面接のときはえらい美人に見えたけど、こうやって家にいるとフツーだよね」

あのねえ。
毎日顔を見たらほれぼれするような美人が、そうそうちまたに転がってるわきゃないだろーが!!!

「え、だってフラフラ手を出しちゃうから美人さんは市場受け悪いんでしょ?そこまで美人かなあ?」
…コイツ、言わないだけで絶対私のこと、デブッたとか皺増えたとか老けたとか思ってるんだろーな。事実だけど。

「あのね、ちまたにはとりあえずオッケーラインだったらサックリ手を出す人種も多いんだよ」
「え、それ木の股でもってヤツ?」
「そーそー。レベルそのへん。だから奥様方はとりあえずオッケーラインの下を目指して雇うんだよ、たぶん」
「ふーん、なるほど」
「ちなみに日本人はフィリピーナを格下だと思って酔っ払って手を出し、白人は手を出すにあたってのみ人種差が気にならない方が多い模様」
「ほお」
なんで私がこんなこと教えてるんだい。

そんなダンナは言う。
「うちのコは美人なほーだよねえ」

…えー、確かにえらく可愛くない0歳児とかえらく不細工な一歳児もいるということを、私は最近知った。
赤ん坊ってみんながみんな可愛いわけじゃない。

でもうちのコが可愛いと言ってもらえるのは、このコの愛想がまあまあいいのと、可愛い服を着てるからであって、顔はとくに可愛いわけじゃないのよ…
たぶん顔だち自体は、ヘルパーちゃんのほうが美形だと思うわ。

という真実は言わないでおいてあげた。
パパにとってのお姫さまなら、それがいちばん。