久しぶりの日記。
2011年8月4日。
僕はこの日を一生忘れない。
子供の頃に大嫌いだったもの。
それは雲ひとつない青空。
なぜだろう?最初はすごく気持ちがいいはずなのに。
『今日は友達と野球ができる!』
『自転車に乗って遠くまで遊びに行ける!!』
幸せな気分がどんどん大きく膨らんで、膨らんで。
そしていつもいつも・・・・弾けて、溢れてしまう・・・・・・。
『こんな天気のいい日に僕は死んじゃうんじゃないだろうか?世界は終わっちゃうんじゃないだろうか?』
それは、子供なら誰でも類似の体験をするのかな?
「あぁ、それによく似たこと子供のとき考えてたよ♪」って軽くみんなは答えてくれるのかな?
もちろん大きくなってからは、そんなこと考えたりしなかった。
だって知ってるから。分かってるから。
何百、何千の晴天を経ても、僕は生きてるし、世界は終わっていないんだから。
だから、そんなことは、もう考えなかったのに。
いつものように家に帰った8月4日。
お風呂に入って、ビールを飲んで、大好きな漫画を読んでいた。
いつものとおり。
いつものとおりの大切な時間。
携帯を見ると着信アリ。
「おっ、Mやんか。」
M君は高校時代の同級生。同じクラブの男の子で、今なお仲が良く(くされ縁?)、飲み友達である。
でも、きっと、この電話の音が、世界が終る予兆だったんだ。
「ろん。いま何してる?どこにおるん?」
「もう家に帰ってきてる。もし近場で飲んでるんやった出ていくで?」
「そっか。じゃあ今からそっち行く。家で待ってて。1時間ぐらい。」
「ほいほい。了解っす。」
いつになく真剣な調子で電話を切るMを不審に感じながらも、『まぁ、来るって言ってるんだから』って呑気に待ってた俺。
1時間後M到着。
部屋に入るなり、部屋の中をきょろきょろと見回す。
「ええか、ろん。落ち着いて聞けな。」
「なんやねん、改まって。どないしたん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・Fちゃんが死んだ・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・は?」
「だからFちゃんが死んだ。今朝。」
「・・・・・・・・・・・何言ってのお前?」
「俺とTは今からFちゃんの家まで行く。お前も一緒に来い。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
俺そのとき何したと思う?
耳塞いだんだって。必死に。
大の男が。おっさんが。両手を両耳に押し付けて。
みっともなく。
恥ずかしげもなく。
子供が『イヤイヤ』ってするみたいに。
(M曰く、この時点で目の焦点が合ってなくて顔面蒼白だったらしい。)
だって、音がするんだもん。
ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジ、ジって。
うるさくって仕方がないんだもん。
あれがきっと世界が終る音なんだ。
何かが壊れていく音。崩れていく音。綻ぶ音。
そのあとのことは正直あんまり覚えてない。
断片的に。
車に乗ったこと。
皆に挨拶したこと。
お通夜に行ったこと。
会社に連絡をしたこと。
お葬式にも出席したこと。
気がつけば4日ぐらい経ってた。
そして驚いた。
ほんとに何も覚えていないことと・・・・・・まだ泣いていないことに。
あれ?俺まだ泣いてないなぁ。
胃が痛い・・・・なんでだ?
会社行かなきゃ・・・・・
Fちゃん、やっぱり駄目だったのか・・・・
手に力が入らないなぁ、なんでだろ?
俺、明日どこに行くんだっけ?
どうして俺は泣かないんだ?
それにしてもおなかが痛い。吐き気もする。
どしたん?M?なんか俺に用か?
仕事は?俺昨日仕事行ったっけ?行ったよな?
やっぱり?何がやっぱりなの?なんで『やっぱり』Fちゃん駄目だったの?
A子やん。なんで俺の家にいるの?
なんか最近みんなの声が小さい。耳がおかしくなったのかな?
どうしよう。気持ち悪い。耳鳴りがする。なんか飲まなきゃ。
すみません。駄目みたいです。もう役に立てません。ほんとすみません。
『やっぱり』が引っかかる。なんで?俺何か忘れてる?
すまん。M。一人にして欲しい。
A子、お前うざい。じっとしてくれ。何言ってるかわからん。
あれ?俺泣いたっけ?Fちゃん死んで泣いたっけ?
仕事?辞めた。だって時間が進まない。時計が全然動かないんだもん。
緑が見たい。
緑色がいっぱいあるところに行きたいなぁ・・・・
高校3年生の2月。
学校の最寄り駅をつなぐ歩道橋。
夕日に赤く染まるベンチに腰掛けるようFちゃんに促された。
「ろんくん。もう終わりにしよう。」
「・・・・・・」
「きっとお互い大学に入ったらもう上手くいかない。」
「・・・・・・」
「ろんくんは新しい世界に触れたら、そっちに絶対惹かれちゃう。」
「・・・・・・」
「私は京都やし、ろんくんは大阪。距離も結構離れるし。」
「・・・・・・」
「だから、もう終わりにしよう。」
「・・・・・・・・・・・・いやや。」
「自分でも分かってるんやろ?これ以上は無理って。」
「・・・・・・・分かってない。」
「そんな阿保とちゃうやろ?あまり困らせんといて。ろんくんのこと嫌いになってまうよ?」
「・・・・・・・じゃあ、まだ好きってことか?」
「うん。好きやよ。」
「なら、なんで別れるとか言うん?意味が分らんわ!!」
(はぁ・・・書いてて情けなくなる。ほんと阿保やな。俺。)
「もういい。何も言いたくない。」
5年前秋。
大阪なんば。千日前通。
「もしもし?夜分遅く申し訳ありません。○○高校△△部OBのろんと申します。Fさんは御在宅ですか?」
「あら?ろんくんお久しぶり。元気にしてる?Fさっき帰ってきたとこよ。ちょっと待っててね」
「もしもし?」
「頼むから携帯持ってくれ。この年で家に電話して、お母さんに挨拶するとか恥ずかしすぎる。」
「ええやんかぁ、別に♪それより、酔ってる?」
「うそ?何で分るん!?」
「!?『なんで分るん』って本気で言ってんの?ろんはお酒飲んだ時しか、私のとこに電話せーへんやんww」
「うん。いまFとTと飲んでる。あと□□高校のS覚えてる?あいつとも飲んでるねん。」
「あははw楽しそうやね♪で、何?お誘いの電話?」
「それもあるけど・・・・Fちゃん・・・・好き・・・・」
「めっちゃ酔ってるしww」
「本気やっちゅうねん!笑うなよぉ」
「うそうそ。ありがと。知ってるよ♪」
「なぁ・・・お前告白するの何回目?」
「うるさい。黙れM。多分9回目じゃ。」
「そんなに好きなん?」
「めっちゃ好き」
「そんなに好きやったら告白したら?」
「T死んでしまえ。9回したっちゅうねん!」
「じゃあ、無理やろ。」
「無理やなぁ。」
「しゃあないやん。好きやねんもん。」
高校卒業して1年と2ヵ月。
恩師の運転する車の中。
「ろん。大学どうや?」
「もう体育会には入らんのか?」
「バイトは何してるんや?」
「彼女できたんか。なんやかんや言って女の子と一緒やな。」
「俺は別にいいんや。彼女おる教師なんて信用するなよ。」
「強がりちゃうぞ。俺は彼女より生徒に時間を使いたいねん。」
「うるさい。飯おごらんぞ。」
「そうや。彼女と言えば、この前Fともご飯食べに行ったぞ。」
「女の子ばっかり5人連れて。」
「エロくないわっ、あほ。元生徒やんけ。」
「F元気そうやったぞ。一人暮らし楽しいって。」
「で、そのとき、たまたまお前の実家の近く車で通ったぞ。」
「『先生知ってます?こころんくんの家の近くなんですよ♪』やってさ。」
「嬉しそうに説明してたぞ。」
「嘘やないぞ。ほんまやって。」
「なんやねん信じろや。」
「・・・・・・・・・・・・・・・は?お前何?泣いてんの?」
「ほんま・・・・なんでお前ら別れたん?」
ちょっと疲れてしまったなぁ。
続きは次回。
がんばれ、俺。


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