もう5、6年前の話となるが、小学生だった息子の昆虫観察として、ショウリョウバッタを飼っていたことがある。
7月の初めころ、家の傍で捕まえた、体長7cmほどのショウリョウバッタ。
毎朝、虫かごのフンを掃除し、餌の葉っぱを取り換え、霧吹きで湿らす。
取り替えたばかりの葉っぱに齧りつき、カリカリと小気味いい音を立てて餌を食べるその姿に、こっちも元気をもらう。
夏休みになって、長崎に1週間ばかり帰省する際、このままショウリョウバッタを置いていくわけにもいかず、結局、長崎まで連れて帰ることにした。
羽田空港の手荷物検査場で、空港税関の若い男性職員が、「これ、ショウリョウバッタですね」と笑顔で話してくれた時は、何だか嬉しかったな。
というわけで、我が家のショウリョウバッタは空路長崎まで、高度10,000mを飛んだわけである。
長崎の母親には、
「なんねー、バッタまで持ってきてー」
と驚かれたが、これも息子の情操教育のひとつなんだよな。
ショウリョウバッタは長崎でも毎日取り換える新鮮な餌を食べ、元気もりもり。
帰りの空路も、自分が高度10,000mを飛んでいるという認識もないのだろう、静かに虫かごの中で過ごしていたな。
希少種以外のバッタで高度10.000mを二度飛んだショウリョウバッタは居ないのではないだろうか。
たぶんギネスだな。
そしてショウリョウバッタは、翌年2月のある朝、突然死んでしまった。
亡骸は感謝の気持ちと共に土に埋めて、丁重に埋葬した。
子供の頃、長崎の野山を駆け回ってバッタからトンボ、蝶、蝉、クワガタを捕まえては手で触って観察し、長崎のファーブル君と自称していた親父と違って、その息子、実は昆虫が苦手である。
長崎に帰る時、ショウリョウバッタは逃がしてあげれば良かった。
バカ親父のバカな思い込みで、尊い命を粗末にしてしまった。
ごめんなさい。
どうか許してください。
(了)