就職を機に引っ越した、高円寺のモルタル造り、風呂なし、ついでにエアコンもなしのアパートに住み始めた頃、シネサイクル「叛頭脳」のA先輩から電話をもらった。
「タカフミ、ビデオデッキ買わない?」
A先輩は、私が学生時代に住んでいた三鷹の“土蔵部屋“の隣のアパートに住んでいて、大学に入学してから現在に至るまで、実の兄のように、いろいろと面倒をみてくれている恩人である(これからも本ブログに度々登場していただくことになる)。
A先輩はイベント会社で働いており(後に自身の会社を興される)、ちょうどイベントの開催場所だったのだろう、その横浜のデパートで、持ち帰りという条件で、VHSのビデオデッキが格安で買えるという。
1980年代半ば、ビデオデッキは高級品で、確か2万円台だったと思うが、これは破格に安い。
一も二もなく、「買います!」と返事して、家中の小銭までかき集めて買いに走った。
貸しビデオ屋は今は廃れたが、高円寺北口のあづま通り商店会にも1軒あった。
毎週末に立ち寄っては、観たかった映画、観たこともない映画のビデオを借りまくった。
その貸しビデオ屋では貸出本数に制限があって(確か5本までだったか)、毎回上限まで借りた。
モニターは14インチの小さなTVだったが、映画は楽しく、面白く、感動した。
時の経つのも忘れさせ、時に泣き、時に激しく心が震えた。
映画サークル出身なので、ジャン=リュック・ゴダールやフェデリコ・フェリーニ、フランソワ・トリュフォー、アンジェイ・ワイダといった巨匠の作品を観てしかるべきだが、観たのはそのほとんどがハリウッド映画だった…。
(了)