最近,どうも体調を崩しがちで,土曜日の更新を飛ばしてしまいました。その分は,連休ということもありますので,明日埋めたいと思います。

 

先日,某自動車メーカーの会長職にあったフランス人男性が,自らの被疑事実であるところの特別背任罪(会社法960条1項3号)に基づく勾留につき,その勾留理由を開示請求したというものがニュースになりました。この勾留理由開示請求というのは,憲法34条後段の「何人も,正当な理由がなければ,あるいは拘禁されず,要求があれば,その理由は,直ちに本人及びその弁護人の出席する公開の法廷で示されなければならない。」という規定を受けた刑事訴訟法82条以下の規定に基づくものです(このことから明らかなように,憲法上の権利には,外国人にも適用され得るものが存在しています。したがって,「憲法は日本国民だけのもの」というのは明らかな誤りです)。

 

この勾留理由開示請求ないしそれに基づく法廷での勾留理由開示は,あくまで「理由開示」を主な目的としており,直接に勾留取消しを基礎づけるものではないとされています。ただ,準抗告や請求による取消しのきっかけとなったり裁判官自身が再考して,職権で取り消すこともあり得るのだ(刑訴法87条参照)と説明され,決して無意味なものとしては考えられていません。

また,被疑者・被告人に意見陳述を認める(刑訴法84条2項)ことで,被疑者・被告人に反論の機会を与え(勾留継続だとしても,一定の納得感を得)るという面もあるでしょう。

ここで重要なのは,開示される「理由」です。件の被疑者は,「自分は無実だ」という主張を立てたようですが,それ自体はあまり「筋のいい」主張ではなかったのではないかと思われます。勾留を基礎づけている刑訴法60条1項は,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由がある場合」で,かつ①住居不定,②罪証隠滅の可能性についての相当な理由,③逃亡のおそれについての相当な理由の3つのうち少なくとも1つが充足されることを要求しています。したがって,もちろん,「罪を犯したことを疑うに足りる相当な理由」がないのだという主張は当然あり得るでしょう。しかし,現在の捜査機関の捜査能力からするとこの点について否定するのは,実はかなり困難です。事実の面で否定するのではなく,法の解釈・適用のレベルまで問題が進んでしまえば,もはやこの点で勝負をするのは無理があるといえます。しかも,今回の被疑者はフランス人であり,①はともかく,フランスへの帰国という形での③を否定できません(入管をパスできるかは問題ですが)。そして,当該会社の最高位にあった被疑者にとって,②を否定することは簡単ではありません。部下に接触してしまえば,容易に買収を含む証拠隠滅ができるためです。こう考えてみると,やはり勾留「取消し」は容易ではないでしょう。

 

他方,勾留理由開示は万全かというとそうでもありません。多くの場合では,単に,上記該当性が存在するとのみ述べられ,その理由を具体的に開示されることはほとんどないとされています。したがって,被疑者・被告人にとって勾留に対する納得度を上げるとはいえ,聞かされる内容は,「あなたには罪を犯したと疑われる相当な理由があります。そして,罪証隠滅の可能性もありますし,逃亡の恐れもあります」とだけであり,それだけ言われたところで「なんでだ!?」と思うのが人情でしょう。その意味では,勾留理由開示というシステムは必ずしも「被疑者・被告人の防御」に資する制度とはなっていません。となると,この段階で,被疑者・被告人に,裁判官に向かって言いたいことをいう・聞いてもらうということに主眼を置かざるを得ないように思われるのです。


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