日産自動車のフランス人会長が,金融商品取引法上の,有価証券報告書虚偽記載罪(金商法197条1項)の疑いで逮捕されたということを受けて,同社は11月22日に取締役会を開催し,同氏の会長職を解き,代表権を剥奪したとの報が出ました。この報道を見て,「彼は取締役ではなくなった」というような誤解や,あるいは「取締役ではあるのか?」といった疑問を持った人もいるでしょう。今日はこの点について,会社法上の規律をお話しようと思います。

 

日産自動車は,フランスのルノー社が半分近くの株式を保有する,事実上の子会社化しています(実際に,上記の(元)会長はルノーの最高経営責任者でもありました)。しかし,日産自動車は日本に本社(本店)を置く一会社ですので,日本の会社法の適用を受けます。したがって,取締役やその代表権についての規律は日本の会社法の規律を受けるわけです。

日本においては(そしておそらく世界でも),取締役の選任は,株主総会において行われます(会社法329条1項)。そして,株主総会では,「取締役」を選ぶのみであり,取締役会設置会社では,(複数人いる)取締役の互選によって,代表権を持つ取締役が選ばれます(会社法362条2項3号)。このように,会社法では,取締役会設置会社における取締役の選任と,その代表権の付与は分けて考えられています。それは,経営の専門家集団である(べき)取締役会に経営に関する強い権限を付与しているためです。

このような理解に立つとき,代表権は取締役会が付与したものである以上,同様に,取締役会の権限で剥奪することができるわけです(同362条2項3号)。そうすると,取締役会がどんなにその取締役が取締役にすら不適だと考えても取締役の職までを奪うことは許されません。これは,例えば,会社内(特に株主間)での利害対立があるとき,多数派を形成している取締役らによって少数派が送り込んだ取締役を排除されないようにするという機能も有しています。このことはひいては,少数派株主の利益を保護するという役割も担っているのです。

 

取締役は株主総会で解任する(会社法339条1項)か,訴訟による(同854条)しかありません。他方で,取締役の資格として,会社法331条1項は一定の犯罪に該当し,その刑の執行を終えているなどの要件を課しています。したがって,現在某氏は,逮捕はされているものの,有罪判決を受けたわけではありませんので,まだこの資格要件に引っかかることはありません(これは一種の無罪推定でもあります)。


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