「不動産」という言葉を聞いたことのない人はいないでしょう。また,比較的人気のある資格に,「宅地建物取引士(いわゆる宅建[タッケン])」という不動産に関する資格があります。その意味でも,「不動産」というのは,我々にとってなじみのある存在です。

 

他方で,「不動産」というのは,法律用語でもあります。民法86条1項は「土地及びその定着物は,不動産とする。」と規定し,同2項は「不動産以外の物は,すべて動産とする。」と規定しています。ここから明らかなように,民法はまず不動産を定義した上で,その他の物を動産とするという方法で規定しています。したがって,まずはじめにそれが不動産かどうかが問題になるわけです。

しかし,民法86条1項の規定は非常に簡単で,土地が不動産であることは明らかでも,「その定着物」が何なのかが一見すると分かりません。ただ,民法369条が抵当権については不動産が目的物となることを定め,同388条が「土地又は建物につき抵当権が設定され」と規定していることなどから,どうやら建物は土地とは別の不動産であるということが看取されます(なお,不動産登記法2条1号は明確に不動産を「土地又は建物」としています)。しかし,これは何も普遍的な原則ではありません。例えばドイツなどでは建物は(重要ではあるけれど)土地の着物に過ぎず,むしろ日本のように建物を「不動産」とするのは少数であるのかもしれません(なお,日本が建物を独立した不動産とみることについての法制史的研究として,柴田育子「『土地と地上建物の別個独立』構成の貫徹はいかにして生じたか」立命館法政論集1号(2003年)262ページ以下がある)。

他方で,(今やあまり見かけませんが)民法学上伝統的に言われるような,石灯籠などは土地に包摂(つまり,土地の一部と)されて,民法86条1項にいう「定着物」となると理解されているのですが,石灯籠だって取り外せるわけです。そうすると,ここでは「何が取引対象となっているか」という視点が組み込まれていることに気づきます。土地を買うときに,その石灯籠まで買っているだろう,と。

 

動産と不動産の区別は,民法では重要な差異を生みます。先述した抵当権の対象になり得るのかということもそうですが,抵当権の対象になり得るかというのも「公示方法」についての差があるためです。つまり,動産では所持(占有といいます)が権利者であることの公示方法となるのに対して(民法178条,180条,182条1項参照),不動産では登記です(民法177条)。したがって,過去,土地の取引が,登記をしたときに法務局で付与される「権利証」(厳密には登記済証)をもってなされていたというのは,象徴的だったのです。


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