No. 2181 多極化する世界の危機と希望

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The perils and promise of the emerging multipolar world

by Jeffrey D Sachs

 

世界経済は深い経済収束のプロセスを経験しており、そこではかつて工業化で欧米に遅れをとった地域が、失われた時間を今取り戻しつつある。

 

世界銀行が5月30日に発表した最新の国別生産高予測(2022年まで)は、新たな地政学について考える機会を与えてくれる。新しいデータは、米国主導の世界経済から多極化する世界経済へ移っていることを力説している。この現実を、米国の戦略家たちはこれまで知ることも、受け入れることも、認めることもできなかった。

 

世界銀行の数字は、欧米の経済支配が終わったことを明確に示している

1994年には、G7諸国(カナダ、フランス、ドイツ、イタリア、日本、英国、米国)が世界生産の45.3%を占めていたのに対し、

BRICS諸国(ブラジル、中国、エジプト、エチオピア、インド、イラン、ロシア、南アフリカ、アラブ首長国連邦)は18.9%だった。

 

立場は逆転した。現在BRICS諸国は世界生産の35.2%を生産し、G7諸国は29.3%を生産している。

 

2022年現在、経済大国は順に中国、米国、インド、ロシア、日本の5カ国である。

 

中国のGDPは米国よりも約25%大きい(中国の1人当たりGDPは米国の約30%だが、人口は4.2倍)。

上位5カ国のうち3カ国はBRICSに属し、2カ国はG7である。

1994年には、上位5カ国は米国、日本、中国、ドイツ、インドで、G7が3カ国、BRICSが2カ国だった。

 

世界の生産高のシェアが変われば、世界のパワーも変わる。米国、カナダ、英国、欧州連合(EU)、日本、韓国、オーストラリア、ニュージーランドを含む米国主導の同盟は、1994年には世界生産高の56%を占めていたが、現在は39.5%に過ぎない。

その結果、米国の世界的影響力は弱まりつつある

 

最近の顕著な例として、米国主導のグループが2022年にロシアに対する経済制裁を導入した際、中心的な同盟国以外の国はほとんど参加しなかった。その結果、ロシアはほとんど苦労せずに貿易を米国主導の同盟国以外の国々にシフトさせた。

 

世界経済は深い経済収束のプロセスを経験しており、19世紀から20世紀にかけて工業化で欧米に遅れをとった地域が今、失われた時間を取り戻しつつある。経済収束は実際には、アフリカとアジアにおけるヨーロッパの帝国支配が終焉を迎えた1950年代に始まった。まず東アジアで始まり、およそ20年後にはインドで、そして今後20~40年間はアフリカで、波状的に収束が進んだ。

これらの地域や他のいくつかの地域が西側諸国よりもずっと早い速度で成長したのは、彼らが急速に教育レベルを引き上げ、労働者のスキルを向上させ、電化やデジタル・プラットフォームへの普遍的アクセスを含む近代的なインフラを設置することによってGDPを押し上げる「成長の機会」をより多く持っているからだ。

 

新興国はしばしば、最先端のインフラ(例えば、高速都市間鉄道、5G、近代的な空港や港湾)で富裕国を飛び越えることができる一方、富裕国は老朽化したインフラや高額な改修費用から抜け出せないでいる。

 

IMFの世界経済見通し{2}によると、新興国や発展途上国の今後5年間の平均成長率は年率4%程度となる一方、高所得国の平均成長率は年率2%未満になると予測されている。

収束が起きているのは技能やインフラの分野だけではない。

 

中国、ロシア、イランを含む新興国の多くは、民生・軍事両面で技術革新を急速に進めている。

 

中国はバッテリー、電気自動車、5G、太陽光発電、風力タービン、第4世代原子力発電など、世界のエネルギー転換に必要な最先端技術の製造において明らかに大きくリードしている。

 

中国は宇宙技術、バイオテクノロジー、ナノテクノロジーなどにおいても急速な進歩を遂げている。

 

これに対して米国は、中国がこれらの最先端技術において「過剰生産能力」を持っているという不合理な主張をしているが、明白な真実は、米国が多くの分野で大幅な生産能力不足を抱えているということである。

中国の技術革新と低コスト生産の能力は、莫大な研究開発費と科学者やエンジニアの膨大な労働力によって支えられているのだ。

 

新しい世界経済の現実にもかかわらず、米国の安全保障国家は依然として「優位性」という大戦略を追求している。すなわち米国が世界のあらゆる地域で支配的な経済、金融、技術、軍事大国になるという願望である。

 

米国は黒海地域のロシアをNATO軍で包囲することでヨーロッパにおける優位性を維持しようとしているが、ロシアはジョージアでもウクライナでも軍事的にこれに抵抗している。

 

米国は南シナ海で中国を包囲することで、いまだにアジアでの優位性を保とうとしており、この愚行は米国を台湾をめぐる悲惨な戦争に導きかねない。

 

米国はまた、パレスチナ{3}を第194番目の国連加盟国として承認するというアラブ世界の一致した呼びかけに抵抗することで、中東における地位を失いつつある。

 

今日優位に立つことは不可能だが、米国の相対的な力がはるかに大きかった30年前でさえそれは思い上がった考えだった。

 

現在、世界の生産高に占める米国の割合は14.8%で、中国は18.5%である。また、世界人口に占める米国の割合はわずか4.1%で、中国は17.8%である。

 

広範な世界経済収束の傾向は、米国の覇権が中国の覇権に取って代わられるということではない。実際、世界の生産高に占める中国のシェアは、今後10年間で約20%をピークにその後は中国の人口減少に伴って低下していくだろう。世界の他の地域、特にインドやアフリカは、世界の生産高に占めるそれぞれの割合が大きく上昇し、それに伴って地政学的な比重も高まるだろう。

 

したがって私たちはポスト覇権主義の多極化した世界に突入しつつある。この世界もまた難題をはらんでいる。

 

覇権をめぐって複数の核保有国が無駄な競争を繰り広げる、新たな「大国政治の悲劇」が到来する可能性がある。

 

世界貿易機関(WTO)の下での自由貿易のような、脆弱なグローバル・ルールの崩壊につながる可能性もある。

 

あるいは、国連憲章に基づき、大国が相互に寛容と自制、さらには協力を行使する世界になるかもしれない。

 

なぜなら核の時代においてはそのような国家運営だけが、世界を安全に保つことができるということをそうした大国はわかっているからである。

Links:

{1} https://data.worldbank.org/indicator/NY.GDP.MKTP.PP.CD

{2} https://www.imf.org/en/Publications/WEO/weo-database/2024/April

{3} https://www.commondreams.org/tag/palestine

 

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