三菱商事、三井物産、伊藤忠が海外に配置する駐在員の増減から「地政学リスク」を読み解く

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ダイヤモンド・オンライン

世界最大市場の中国、LNG大生産国のロシアのビジネスをどう見直すかが商社の経営課題になっている Photo:JIJI

 

 『週刊ダイヤモンド』2月3日号の第1特集は「商社の快進撃」です。

 

米著名投資家のウォーレン・バフェット氏が株式を取得した2020年以降、総合商社の株価は最大4倍以上に上昇。三菱商事や三井物産は、初めて純利益1兆円超をたたき出しました。

 

しかし、絶好調に見える商社にも死角はあります。

 

例えば、米中対立の激化などで中国ビジネスのリスクが高まっていることは大きな波乱要因です。

 

本特集は総力取材で発掘した独自ネタで、商社の課題を浮き彫りにします。(ダイヤモンド編集部副編集長 千本木啓文) 【この記事の画像を見る】 

 

● 中国から最速“足抜け”を果たしたのは 人員を6割減へらした財閥系商社  

 

ダイヤモンド編集部は、ブレーントラスト社の総合商社専門誌「週刊ブレーンズ」のデータなどを基に、2008~23年の七大商社の中国における駐在員数や投資額の変化を分析した。  すると、カントリーリスクが高まっている中国やロシアからヒトやカネを引き揚げている実態が明らかになった。

 

中国から人員を6割減少させ、リスクマネー(投融資保証、貿易債権などの合計)を5年で1割減らした商社もあった。

 

● 「中国最強商社」を自任する 伊藤忠ですら人員を1割削減 

 

 「正直に言って、中国に大きく張るフェーズではなくなった。米中分断の時代に、いかに強かに商売をするかが問われている」  

大手商社の首脳は、中国ビジネスの難しさをこう語る。  

 

実際、商社をはじめとした日系企業は中国市場で苦戦を強いられている。製造業では、三菱自動車のように中国から撤退する企業もある。  

 

日本の会社員が「反スパイ法」違反の容疑で複数人逮捕されるなど社員の安全の確保も難しくなっている

 

中国の人員をシンガポールや東京にシフトする企業も出始めた。 

 商社のビジネスは、主要顧客である日系企業の好不況から大きな影響を受ける。商社は中国に進出した自動車メーカーなどに鉄鋼製品や化学品などを供給してきた。メーカーが中国企業からの部品の調達を増やしたり、工場をベトナムなどに移転させたりしたことが、商社のビジネスの縮小につながった。  

 

下図を見てほしい。三菱商事の中国からの撤退が鮮明になっていることが分かる。中国の社員数は08年の781人から実に62%減少している。  三菱商事が持ち分比率で20%を出資する三菱自動車が中国で販売不振に陥ったことや、化学品を日系メーカーなどに納める事業を分社したことが影響した。  三菱商事の中国のリスクマネー残高は5年間で1割減少している。  

 

三菱自動車が計画している中国での生産・販売からの撤退が完了すれば、三菱商事が中国に張っているカネやヒトはさらに減る見込みだ。  

 

経営資源を引き揚げているのは三菱商事だけではない。 

 

 「中国最強商社」を自任する伊藤忠商事ですら人員を削減している。  

 

同社は16年に中国のコングロマリット、中国中信集団(CITIC)に6000億円を投資したにもかかわらず、中国の駐在員などは17年比で1割減っているのだ。  

 

伊藤忠中堅幹部は、課題となっているCITICとのシナジー発揮について、「現地の社員数を増やせばうまくいくという単純な話ではない。さらにシナジーを生むべく、本社の幹部と北京、香港、シンガポールの代表者が連携している」と話す。  

 

今後の中国の人員は「営業拠点の再編が一段落したので現状維持になりそうだ」(同中堅幹部)という。  

 

ダイヤモンド編集部は本特集で、中国だけでなく、米国、ASEAN(東南アジア諸国連合)、欧州における過去15年間の駐在員数の変化を分析した(特集『戦時の商社』(全16回)の#1『【独自】三菱、三井、伊藤忠…7大商社の「海外駐在員数」激変!中国から最速“足抜け”は人員6割減のあの会社』参照)。  

 

各国・地域のビジネスの成長性を見据えて、ダイナミックに人員配置を換える柔軟性は、商社ならではの強みといえる。  ただし、商社の社員数が減少するとともに、海外の駐在員数が減っているのも事実だ。伊藤忠は世界の営業拠点を09年の138カ所から86カ所まで縮小するなど、商社の海外ネットワークの網目は粗くなっている。  

 

確かに、インターネットが発達した今日、各国の地方都市にまで人を配置して情報収集に当たるのは効率的とはいえない。だが、世界に張り巡らせた人材網が商社ならではの武器であることは間違いない。テクノロジーを活用しながらグローバルの人材網をいかに生かしていくかは、商社にとって最も重要な課題といえるだろう。

ダイヤモンド編集部/千本木啓文

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