2024年1月20日 (土)

イエメンに対するアメリカ-イギリス攻撃は、より広範な戦争の前兆

2024年1月16日
Brian Berletic
New Eastern Outlook

 

 2024年初頭の数週間、イエメンのアンサール・アッラー(欧米メディアは「フーシ派」と呼んでいる)が支配する地域の標的に対し、アメリカとイギリスが複数の大規模なミサイル攻撃と空爆を一方的に開始した。

 この攻撃は、ガザで進行中のイスラエルの懲罰的作戦に対抗してイスラエル発着商業船に対してアンサール・アッラーが実施したミサイル攻撃と乗船作戦に続くものだ。

 米英攻撃の目的は商業海運を守ることだとされているが、紅海でのいかなる紛争も、あらゆる戦闘が収まるまで代替ルートを模索し使用し続けるよう国際海運会社に促す可能性が高い。

 実際、ユーロニュース・ビジネスによると、アンサール・アッラーに対する米英攻撃にもかかわらず、世界海上輸送の5分の1を占めるマースクのCEOは、紅海を安全に航行するのはまだ数カ月先だと考えている。

 これら攻撃に伴う政治姿勢にもかかわらず、戦略的には、アンサール・アッラーの戦闘能力に影響を与えることはほとんどあるまい。この政治運動は、アメリカ、イギリス両国が支援するサウジアラビア主導のアラブ連合が、何年にもわたり、彼らに対し仕掛けた全面戦争を乗り切った恐るべき軍事組織を所有している。

 アメリカとイギリスは、イエメンに対する空中戦と地上戦を維持するようサウジアラビアに奨励しただけでなく、両国はサウジアラビアの戦争努力に直接貢献した。

 2018年の「陸軍特殊部隊、イエメン反政府勢力からの脅威と戦うサウジアラビアを秘密裏に支援」と題する記事で、アメリカ特殊部隊が、少なくともサウジアラビア-イエメン国境沿いで活動し、サウジアラビア軍の標的選択を支援していたことをニューヨーク・タイムズは認めていた。

 同記事は、アメリカが「航空機への給油、兵站、一般的情報共有」に関する支援も行っていたことも認めている。

 ガーディアン紙は、2019年の「『サウジは我々なしではやっていけない』:イエメンの致命的戦争におけるイギリスの本当の役割」と題する記事で、対イエメン戦争でイギリスがサウジアラビアに提供した支援の範囲を認めた。それには、武器や弾薬の供給、何千人もの整備請負業者、パイロット訓練、更に、イエメン国内でサウジアラビア軍兵士と共に戦うために、イギリス兵の派遣が含まれていた。

 サウジアラビア自身の対イエメン戦争の規模と、何千人もの請負業者と、地上での何百人もの兵士使用を含む、サウジアラビアに対するアメリカとイギリスの支援規模は、アメリカとイギリスが紅海で行っている現在のミサイル攻撃や空爆を凌駕する。たとえアメリカとイギリスが、現在のミサイル攻撃と空爆作戦を大幅に拡大したとしても、近年、イエメンに対して行われてきた戦争と比べれば、まだ見劣りするはずだ。

 明らかに、現在のアメリカ-イギリスによるイエメン攻撃がアンサール・アッラーを抑止する可能性がほとんどないのに、一体なぜアメリカとイギリスは、こうした攻撃を行っているのだろう?

 

 イエメンを攻撃するワシントンの本当の動機

 

 「アメリカとイギリス、イランが支援するイエメン・フーシ派に対する攻撃を実施」と題する記事で、CNNはこう主張している。

 何週間もイスラエルとハマスの戦争が続く中、既に緊張がくすぶる地域でのエスカレーションの危険性を理由に、アメリカはイエメンへの直接攻撃を避けようとしてきたが、国際海運に対するフーシ派攻撃が続いているため有志連合は行動を余儀なくされた。

 ところが、この攻撃は確実に紅海での船舶航行が妨害されたままにするだけで、攻撃自体がアンサール・アッラーに戦略的に影響を及ぼす望みがほとんどないため、アメリカがなぜ攻撃を開始したのかは、他に「地域におけるエスカレーションのリスク」を高めるためという説明しかない。

 

 アンサール・アッラーの同盟国イランは、何十年もアメリカが支援する政権転覆作戦の標的となってきた。ブルッキングス研究所や、2009年の論文「ペルシャへの道はどれか?」などアメリカ政府や大企業が資金提供するシンクタンクにより政策文書全体が書かれており、イラン国内の秘密工作や、イランの地域同盟国ネットワークへの攻撃など、イランを戦争に引き込もうとする意図的な試みなど政権転覆を実現するための選択肢を詳述している。

 ブルッキングス論文も認めている。

 「...アメリカ合州国が空爆を仕掛ける前に、イランによる挑発をその正当化の理由として引き合いに出せれば遙かに好ましい。イランの行動が明らかに非道で、致命的で、いわれのない行動であればあるほどアメリカ合州国は有利になる。もちろん世界の他の国々がこのゲームに気づけば、そのような工作は台無しになるので、アメリカ合州国がイランをそのような挑発に駆り立てるのは極めて困難だろう。(成功の可能性がいくらかある一つの方法は、テヘランがあからさまに、あるいは半ばあからさまに報復し、イランのいわれなき侵略行為として描かれるのを期待して秘密の政権転覆努力を強化することだ。

 イエメンに対する米英ミサイル攻撃と空爆に先立ち、アメリカはシリアやイラクを含む地域全域のイラン同盟諸国への攻撃を実行した。アメリカの支援を受けて、イスラエルはイラン同盟諸国、特にレバノン南部のヒズボラに対しても地域全体で攻撃をしている。

 最近、イラン国内で爆弾テロがあったが、ブルッキングス論文が示唆する「イラン国内の政権転覆工作を隠蔽する」案によれば、まさにそのような攻撃を実行するため、アメリカが支援するいくつかのテロ組織の一つが実行した可能性が高い。このブルッキングス論文の他の場所で、アメリカが支援する「反乱」を実行するのに既知のテロ集団を利用する選択肢が一つの章丸ごとさかれていることに留意すべきだ(第7章「反乱を鼓舞する―イランの少数派と反政府勢力を支援する」)。

 全体として、より広範な紛争に先立ち、地域におけるイランの同盟諸国を弱体化させる戦略で、イランを挑発し、より広範な紛争に引き込む手段なのだ。

 

 これまでのところ、イランは途方もない忍耐力を発揮している

 

ロシアも中国も同じようなアメリカによる包囲と封じ込め政策に直面しているので、時間が自分に有利に働くのをイランは知っている。イランの忍耐は既にテヘランのためになっている。中国の仲介により、サウジアラビアとの緊張を外交的に解決する能力をえた。またイランが自国軍事力だけでなく地域の同盟国ネットワーク全体の軍事力を強化し続けるのを可能にし、力の均衡を徐々にテヘランに有利に変化させている。

 

 ワシントンはこれに気づいている。近年のような事態が展開し続ければ、来年の今頃イランは一層強くなり、この地域でアメリカは一層孤立するだろう。ヨーロッパでの優位性が薄れる同様の問題にアメリカは直面しており、ロシアに対するウクライナでの代理戦争を、ヨーロッパに対し再び幅をきかせる手段として利用している。中東で再び幅をきかせるする一方、地域紛争を利用して、中東諸国を集団的に弱体化させ従属させるのに、同様の戦略を使えるとワシントンは想像しているのだろう。

 

 ヨーロッパでそうだったように、中東でアメリカが「成功」するかどうか時が経てばわかるだろう。既に多くの要因がアメリカに不利に働いているが、ワシントンの視点からすれば、これら紛争のいずれに対してもアメリカが代償を払っているのでなく、これら紛争が戦われている地域が代償を払っているのだ。そのような外交政策におけるいかなる直接費用もワシントンが免れる限り、そうし続ける手段を最終的に完全に否定されるまで、ワシントンは、この政策を追求し続けるだろう。

 Brian Berleticは、バンコクを本拠とする地政学研究者、著者。オンライン誌New Eastern Outlook独占記事。

記事原文のurl:https://journal-neo.su/2024/01/16/us-british-attacks-on-yemen-a-portent-for-wider-war/

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イエメンに対するアメリカ-イギリス攻撃は、より広範な戦争の前兆: マスコミに載らない海外記事 (cocolog-nifty.com)

 

イエメン共和国。外務省データ

1 面積

55.5万平方キロメートル(日本の約1.5倍弱

2 人口

約2,983万人(2020年/国連)

3 首都

サヌア

4 民族

主としてアラブ人

5 言語

アラビア語

6 宗教

イスラム教(スンニー派及びザイド派(シーア派の一派))