秦剛外相解任、習近平主席の信任を裏切った男の末路
東アジア「深層取材ノート」(第196回)
2023.7.26(水)近藤 大介

7月25日夜、「解任」が発表された中国の秦剛外相(写真:ロイター/アフロ)
外相と中央銀行総裁が唐突に「クビ」
まさにズタズタの3期目習近平政権を象徴するような発表が、7月25日夜にあった。北京時間の同日19時1分、中国国営新華社通信が、「淡々と」二つの重要人事に関する記事を発信したのだ。
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<中華人民共和国主席令第八号
中華人民共和国第14期全国人民代表大会常務委員会第4回会議が2023年7月25日に開かれ、決定した。
一. 秦剛が兼任している外交部長(外相)の職務を解く。王毅を外交部長に任命する。
二. 易網の中国人民銀行行長(中央銀行総裁)の職務を解く。潘功勝を中国人民銀行行長に任命する。
中華人民共和国主席習近平 2023年7月25日>
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何と外務大臣と中央銀行総裁という、国家の二つの重要ポストを預かる高官を、一度にクビにしたのである。秦外相は昨年12月に着任したばかりで、易行長は3月に留任が決まったばかりである。
特に、新たに中国人民銀行行長に就いた潘功勝氏は、中国共産党のトップ376人(中央委員205人+候補委員171人)からなる中央委員会のメンバーにすら入っていない。まさに異常事態だ。
死屍累々の3期目・習近平体制
思えば、昨年10月に第20回中国共産党大会で、習近平総書記が「異例の3期目」を果たしてから、すでに夥しい数の幹部たちが解職されている。解職とは、何らかの問題があって摘発されたということだ。解職が確認しにくい人民解放軍の幹部を除いても、主な被解職者は、以下の通りだ。
崔茂虎統一戦線部副部長、范一飛中国人民銀行副行長(副総裁)、李国華聯通総経理(社長)、田恵宇招商銀行党委書記、劉連珂中国銀行党委書記、羅玉林国务院国有资产监督管理委员会副主任(副大臣)、張本才上海検察長、鄭宏重慶市人民代表大会副主任、熊雪重慶市副市長、王雪峰河北省人民代表大会副主任、宋希斌黒竜江省人民代表大会副主任、曲敏黒竜江省政治協商会議副主席、紀国剛遼寧省人民代表大会副主任、付国中瀋陽市人民代表大会主任(副省長級)、傅中偉瀋陽市政治協商会議主席(副省長級)、郝紅軍大連市政治協商会議主席(副省長級)、張暁霖吉林省政治協商会議副主席、陳国強陝西省副省長、李津柱陝西省人民代表大会副主任、劉捍東江蘇省人民代表大会副主任、朱従玖浙江省政治協商会議副主席、殷美根江西省人民代表大会副主任、曹広晶湖北省副省長、易鵬飛湖南省政治協商会議副主席、李春生広東省人民代表大会副主任、周建琨貴州省政治協商会議副主席、李再勇貴州省政治協商会議副主席、姜志剛寧夏回族自治区副書記、焦小平新疆ウイグル自治区建設兵団副指令、姜傑チベット自治区人民代表大会副主任、汲斌昌山東省政治協商会議副主席、孫述濤山東省政治協商会議副主席、李小鵬光大集団董事長(会長)、任陳継広東省人民代表大会副主任、董雲虎上海市人民代表大会常務委員会党組書記……。
まさに、死屍累々である。
中でも驚くべきは、秦剛外相だ。昨年12月30日に、駐米大使から外相に抜擢され、今年3月には、副首相級の国務委員にも兼任で抜擢された。まだ57歳であり、中国政界で飛ぶ鳥を落とす勢いだったのだ。
だが秦剛外相は、6月25日、ロシアのアンドレイ・ルデンコ外務次官、ベトナムのブイ・タイン・ソン外相、スリランカのアリー・サブリー外相と会談を行って以降、丸1カ月にわたって、プッツリと消息を絶っていた。世界第2の大国の外相が、丸1カ月にわたって消息不明などという事態は、前代未聞だ。

7月11日から開催されたASEAN外相会議・関連会合に、秦剛外相に代わって出席した王毅・中国共産党中央外事工作委員会弁公室主任。左はロシアのラブロフ外相(提供:Russian Foreign Ministry Press Service/AP/アフロ)
それが、7月25日の晩になって突然、「解任」が発表された。しかも、何の理由も説明されずにである。
秦剛の解任は「健康問題」が理由ではない
一体何が起こったのか? 以下は、「あくまでも個人的推測」と断った上での、ある中国人との一問一答である。
――中国外交部の報道官は、秦剛外相について「病欠」と説明していたが、それは事実か?
「事実ではない。秦剛の健康状態は良好だ」
――それではなぜ突然、解任されたのか?
「秦剛は、香港フェニックステレビ(鳳凰衛視)の女性キャスター(40歳)を愛人にしていた。彼女は昨年秋、秦剛を父親とすると思われる男児を、アメリカで出産した。かつ彼女は、アメリカ側に通じているとの疑惑があった」
――つまり、中国外交の最高機密が、「敵国」アメリカに筒抜けになっているリスクがあったということか?
「その通りだ」
――それはどうして発覚したのか?
「彼女は3月19日、自らの『微博』(中国版ツイッター)に、生まれて間もない息子の父親の誕生日を祝福するかのようなメッセージをアップした。その日はまさに、秦剛外相の57歳の誕生日だった。また息子の名前も、秦剛を想起させるようなものだった。そこから疑惑が浮上したのだ」
駐米大使が命じられた特別調査
――それで、どうやって調べたのか?
「王毅中央外交工作委員会弁公室主任(外交トップ)が、謝峰駐米大使に特別調査を命じた。その結果、秦剛前駐米大使と彼女との『ただならぬ仲』が明らかになったというわけだ」
――秦剛氏は昨年12月30日、史上最年少の56歳で、中国外相に就任した。それは、習近平主席の覚えがめでたかったからこその抜擢ではなかったのか?
「その通りだ。秦剛は2014年から2018年まで外交部礼賓司長(儀典長)を務め、習主席の数多くの首脳会談をそつなく成功させてきた。駐米大使としても、昨年11月の習近平主席とバイデン米大統領との初となる対面での首脳会談も成功させた。
だからこそ、異例の外相抜擢となったのだ。しかも、本来なら今年3月の全国人民代表大会で外相に就くはずが、3カ月前倒しで昨年12月30日に発令した。これは、外相だけでなく副首相級の国務委員に3月に就かせて外相と兼務させようという習近平主席の『親心』だった。秦剛はそれを裏切ったのだ」
――秦剛はいまどこで何をしているのか?
「中国国内の某所で取り調べを受けていると聞く。愛人も同様だ」
――習近平主席は、この一件をどう知ったのか?
「王毅が報告に行った。習主席も『国家の安全を最優先させるように』と命じた。それで当分の間は、王毅が外相を兼務することとなった」
だが私は、多分に権力闘争の側面があると思う。
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