存在しなかった「ロシア・クーデター」
<記事原文 寺島先生推薦>
The “Russian Coup” that Wasn’t
https://www.paulcraigroberts.org/2023/06/25/the-russian-coup-that-wasnt-2/
筆者:ポール・クレイグ・ロバーツ(Paul Craig Roberts)
出典:本人ブログ 2023年6月25日
<記事翻訳 寺島メソッド翻訳グループ> 2023年7月4日
驚くべきことに、誤った話が確定した話として広まった。
ダグラス・マクレガー大佐も私と同じく、クーデターはなかったことに同意している。
彼はまた、永遠の戦争が核戦争につながっていることに同意している。
https://www.youtube.com/watch?v=VugfuaG_0nc
存在しなかった「ロシア・クーデター」
ポール・クレイグ・ロバーツ
昨日、私はラリー・スパラノと行った「ロシアのクーデター」とされるものについてのビデオ討論を次のサイトに投稿した。
https://www.paulcraigroberts.org/2023/06/24/the-russian-coup-that-wasnt/
私たちの討論を振り返ってみると、情報があまりなかった未解決の状況を考慮すれば、良い仕事をしたと満足している。私は再び「クーデター」問題を取り上げる。なぜなら、そこから学ぶべきことが、まだまだ、たくさんあるからだ。
ロシア・メディアが西側娼婦メディアと同様に誤った話を作り出し、それを確定的なものにしているのを見ると、がっかりする。ロシア・メディアは、ドンバス解放の大部分の戦闘を担当しているワグナー部隊の指導者であるプリゴジンが「武装蜂起」し、プーチンに対して反乱を起こしたという話を確定的なものとしている。だが、実際には武装蜂起の証拠は存在しない。
いわゆる「クーデター」には多くの興味深い側面があり、無視されている疑問がたくさん出てくる。
私は、プリゴジンがロシア軍の指揮にますます不満を抱いていたことを認識している。クレムリンは、プリゴジンとロシア軍幹部の間の確執に対処していなかった。クレムリンが対立を解決しなかったことが、クーデターとして誤解された事件の最も可能性の高い原因だ。
プリゴジンを行動に動かした最後の1本の藁は、彼の部隊の野営地が後方から、つまりウクライナではなくロシアからミサイル攻撃を受けたと信じたことだった。おそらくプリゴジンには、ウクライナの「反転攻勢」の間に(ワグナー部隊という)主力戦力とロシア軍幹部との関係を悪化させるために、虚偽の情報が与えられたのかもしれない。おそらくミサイル攻撃は実際に起きたが、それには異なる説明もできる。
状況は、プリゴジンの非難をロシア国防省が否定することで爆発した。適切な対応は、事実を確認するために調査団を派遣すること、もしミサイル攻撃が起きた場合はその源を特定することだったのだ。
ワグナー部隊とロシア軍官僚組織との間の緊張に加えて、戦闘の重要な段階での不適切な弾薬供給などから生じる緊張があった。ロシア軍幹部はワグナー部隊に対して指揮権を行使しようとしたが、こんな要求や願望をプリゴジンが受け入れることはないだろう。プリゴジンを排除することは、ロシア軍幹部にとって優先事項となった。私がスパラノとの討論で示したように、戦争中の軍の指導者に対する陰謀は日常茶飯事なのだ。
したがって、プリゴジンを刺激するためにワグナー部隊に対する攻撃が行われた可能性はある。この可能性が信憑性を持つのは、
①調査することなく(ロシア官僚が)即座に否定したこと、
②(プリゴジンは)「武装蜂起」した、という公式の説明が、即座に、なされたこと、
があるからだ。調査が行われなかったため、プーチンが知るのは将軍たちが伝える情報だけであり、それは将軍側の話になるだろう。
この「武装蜂起」は、プリゴジンが自身の部隊の一団を率いてモスクワに向かい、「腐敗した将軍たちと対決する」(プリゴジンの言葉)ことだった。プリゴジンは事前にクーデターの意図はないことを宣言していた。
彼がクーデターを企てたと仮定しよう。25,000人の部隊の車列が彼と共にモスクワへ向かっているという娼婦メディアの誇張した主張を受け入れてみよう。軍の車列はどのようにして空爆によって壊滅されずにモスクワに到達するのだろう? そして、万一到着した場合、25,000人の部隊はどのようにしてロシア軍を打ち負かし、モスクワを占拠し、政府を樹立することができるのだろう?
私が即座に思い浮かんだ疑問:なぜプーチンは「武装蜂起」だと宣言することで、焦ってロシアを戸惑わせたのか? モスクワを防衛する軍を彼が持っていないのであれば話は別だ。
ロシア軍はどこにいるのか、という疑問が私の心の中で大きくなっている。私が繰り返し疑問をなげかけているように、どうしてプーチンは衝突を終結させるために十分な力を行使せず、それをますます拡大させ、ワシントンとNATOのますます挑発的な関与を許しているのだろうか? これはナンセンスだ。それはロシアの目的には合致しない。なぜプーチンは小規模な私設軍事グループとドンバスの民兵を使って、ウクライナだけでなく、西側とも危険な紛争を戦っているのだろうか? ロシア軍はどこにいるのか? ロシア軍は存在するのか?
プーチンは、自国の中央銀行と新自由主義のロシアの経済学者から、軍事にお金を費やすことでルーブルと予算赤字を危険にさらさないよう警告されたのだろうか? ロシアには確かに彼ら自身のデイビッド・ストックマン*がいるだろう。経済的な脅威が軍事的な脅威よりも大きいという確信をプーチンは得たのだろうか? プーチンは、ロシアの核戦力が我々アメリカの核戦力よりも圧倒的に優れているため、軍隊は必要ないと判断したのだろうか? ロシア指導層は、十分な従来型戦力を保有しているのならば、どうして核戦争の警告を続けるのだろうか?
*アメリカの政治家であり、かつての実業家。彼はミシガン州選出の共和党のアメリカ合衆国下院議員(1977年〜1981年)であり、ロナルド・レーガン大統領の下で予算管理局長(1981年〜1985年)を務めた。(ウィキペディア)
プーチンがウクライナの紛争を終結させるために十分な従来型の武力を使用しないのは、たぶん、彼が十分な兵力を持っていないためかもしれない。
もしこれが事実ならば、核戦争の可能性は私が考えていた以上に高いということになる。その可能性はすでに非常に高いと考えていたが、もし西側の挑発行為がプーチンが無視できないラインを越え、彼の唯一の可能な反応が核兵器である場合、ハルマゲドン(終末戦争)が我々の頭上を襲う。
ロシア政府とロシア・メディアが西側メディア同様、「武装蜂起」と宣言し、その話を固定化することで生じる不幸な効果
①プーチンの信用を落とそうとする西側の目的に手を貸すことになるし、
②もし全部の力を出し切ってこの任務に取り組めば「私たちは勝利できる」というネオコンのプロパガンダに手を貸すことにもなる、
という点だ。
クレムリン内部の人間やロシア・メディアが、プーチン体制を脅かす異論がロシア軍の中にあるという描写を支持することによって、天に唾するようなプロパンガンダに参加した時、彼らは誰一人何も考えてはいなかった。
危険なのは、以前より自信を持って、西側がロシアに対してより強く圧力をかけているということだ。これは、ロシア軍幹部がプリゴジンの怒りを鎮めることに失敗した結果だ。
西側では、先週土曜日(6月24日)の出来事に対する誤解が完全に広まっている。スコット・リッターやMoon-of-Alabamaなどの、通常は、冷静な分析家さえも、この出来事の誤解を広めている。リッターは、プリゴジンを「ヴィクトリア・ヌーランドの手先」とし、ロシア内部のウクライナの情報機関と連携していると説明した。Moon-of-Alabamaは、この出来事をプーチンがウクライナで独立した軍事力を使用したことに責任があるとしている。
おそらく最もばかげていたのは、プリゴジンの「クーデター」についてその情報を掘り下げていたという「米情報機関」の未確認の「情報筋」の、手前勝手な主張だ。どうしてそんなことが可能なのだ? ミサイル攻撃はプリゴジンの怒りの導火線に火をつけることが分かっていて、彼らがそのミサイル攻撃に関与していたら話は別だ。(ロシア・メディアでもこのばかげた主張が報じられた: https://sputnikglobe.com/20230625/american-media-claim-us-intelligence-learned-about-prigozhins-plans-for-mutiny-in-mid-june-1111453277.html)
私は、これで筆を置く。この拙論が思考を刺激し、現在の状況が以前より比べようもなく危険であるかについての認識を高めることを望んでいる。最後にひとつの見方を述べる。
もし実際にクーデターの試みがあったのであり、プリゴジンと彼のワグナー部隊がロシア国家に対する危険とされたのなら、なぜプリゴジンにベラルーシへの避難を許し、ワグナー部隊をロシア軍に編入することで事態を解決したのか?
これは、クレムリンが実際にはクーデターがなかったことを知っていることを示しているのではないだろうか? それともクレムリンがクーデターに立ち向かう軍を持っていなかったため、プリゴジンと妥協せざるを得なかったということか?
次の発言はロシアの国家存立に対する危険な脅威に関する適切な結論と言えるのだろうか?:
「クレムリン報道官のドミトリー・ペスコフは土曜日(6月24日)の夕方、プリゴジンに対する刑事訴追が取り下げられ、プーチンの保証のもとでベラルーシに出国すると発表した。報道官は、土曜日の出来事に関与したワグナーPMCのメンバーは、ウクライナでのロシア特殊軍事作戦での卓越した功績を考慮し、起訴されないと付言した。」
https://sputnikglobe.com/20230625/american-media-claim-us-intelligence-learned-about-prigozhins-plans-for-mutiny-in-mid-june-1111453277.html