ネット規制で奇怪に進化、中国独自の「SNS文化」が世界に拡大中
中国では、独自のSNS文化が発達している。政治的影響も無視し得ない。ビジネスでは、重要なツールとして活用されている。最近では、中国発の動画メディアであるTikTokが、世界中の若者の間で広がっている。
インターネット規制で独自の発展
中国政府は、グレートファイヤーウォール(金盾)と呼ばれるインターネット規制を、2003年から稼働させている。
政府に批判的な団体のサイトは監視されており、アクセスしようとすると遮断されてしまう。このため、TwitterやFacebookなどの海外のSNSは、中国国内では使用することができない。
また、一市民の書き込みでも、共産党を批判するキーワードが含まれていると、即刻削除され、ウェブサイトがブロックされる。
こうしたことから、中国には独自のSNS社会が発展した。
中国は、 新聞や雑誌が国民の間に広く浸透する時代を経験せずに、インターネットを用いたSNSの時代に入った。その意味で、世界でも特異なコミュニケーション構造の社会が成立していると考えることができる
現在、中国の3大SNSと言われるのは、つぎのものだ。
1.WeChat:国際的にはWeChat(ウィーチャット)、中国国内では微信(ウィシン)と呼ばれる。Tencent(テンセント)が運営する「メッセージSNS」(会員同士がメッセージやチャットのやり取りをする)で、2011年から提供されている。
2.QQ :1999年に提供が開始された。Tencentによる「メッセンジャータイプのSNS」(ユーザー同士がリアルタイムでメッセージのやり取りをする)。
3.Weibo(微博・ウェイボー) : 様々な主体で運営されているが、代表的なのはSINA(シナ)新浪公司が運営するWeibo(SINA Weibo)。ミニブログサイトとか、中国版のTwitterと言われる。
私が時々見ているのは、「知乎」というQ&Aサイトだ。
ユーザーの質問に他のユーザーが回答している。さまざまなテーマが取り上げられており、中国人がいかなる問題に関心を持ち、それについてどんな考えを持っているかを知ることができる(いまは自動翻訳が使えるので、中国語のサイトでも難なく読むことができる)。
無視できないSNSの政治的側面
いかに検閲がなされているとはいえ、誰もが発信できるメディアが存在すれば、常識的には 国の民主化・自由化につながるはずだ。
ところが中国では、そうした動きが一向に生じない。なぜなのか、不思議なことだ。ただし、これはSNSが政治的に無意味だと言うことではない。
「微博現象」と言われるものが、しばらく前から生じている。2012年2月から3月にかけて起きた薄熙来事件がその例だ。ここで微博が重要な役割を果たした。
薄熙来は、当時、重慶市共産党委員会書記。外資導入による経済発展やマフィア撲滅運動などで注目されていた。2012年秋の中国共産党第18回全国代表大会で、中国の最高指導部である共産党中央政治局常務委員会入りの可能性があるとされていた。
ところが、かつての腹心である王立軍が、2012年2月に、アメリカ領事館に亡命しようとして未遂になったという事件が発生した。さらに、妻によるイギリス人実業家殺害や、不正蓄財などのスキャンダルが報じられた。
王が北京に移送されたとの情報が、ほぼリアルタイムで微博に流れた。当局による猛烈な削除と書き込み者の拘束にもかかわらず、情報は止まらなかった。
中南海で起こっている共産党内部の権力闘争が、きわめて正確に、しかも時間遅れなしに、流出してしまったのだ。
政府高官も、ネット情報に敏感にならざるをえなくなった。この事件以来、「政府高官は、朝起きると微博で自分の名前を検索し、なければ安心して他の人の名を調べる」、などと言われるようになった。
現在、香港で続いている中国政府への抗議デモに関連しても、SNSを使った情報戦が展開されている。
政府側が報道機関を装った不正アカウント を用いて、偽情報を流して世論誘導をしている疑いがあるという。
他方、反政府側も、デモ隊を排除する警察の動画を投稿するなどして、政府側の行為を公開している。
反政府派の抗議デモは、通信アプリ「テレグラム」などのSNS経由で始まるのが普通だが、6月に、その運営会社が中国から大量のデータを送りつけられる攻撃を受け、デモを妨害されたと発表した。
ビジネス展開に活用
中国でのビジネスでは、SNSの利用が重要とされる。中国では、まずSNSで評判をチェックし、情報交換をした上で製品を購入するといわれるからだ。
日本のアパレル企業や電気メーカーが、Weiboにアカウントを持ち、中国人向けのプロモーションを行っている。
自治体も訪日旅行客の増加を求めて、SNSの活用に力をいれている。中国人がターゲットの場合、微博がもっとも有効だとされる。
.
TikTokが起こした「動画革命」
通信環境が向上し、動画が快適に見られるようになるにつれて、SNSもテキストから写真へ、そして動画へと変わってきた。
すでに5G時代に入りつつある中国では、これから動画メディアがますます発展していくだろう。
中国のテレビ番組は、政府の厳しい検閲があるため、面白いものが少ないと言われる。これも、動画の人気を高めている要因だ。
中国の3大動画サービスは、つぎのものだと言われる。定額会費と広告収入によって運営されている。
1.iQIYI(愛奇芸・?奇?/アイチーイー:百度傘下)
2. Youku(優酷・?酷/ヨウクー:アリババ傘下)
3. テンセントビデオ(騰訊視頻:Tencent傘下)
全く新しい動画アプリとして、「TikTok」がある。音楽にあわせて15秒のショートムービーを音楽付きで撮影し、投稿する。現在150の国と地域で利用され、75の言語に対応している。2018年7月には、世界の月間アクティブユーザーが2億人に達した。つまり、TikTokは中国発の全世界的メディアになっている。
利用者は、10代のユーザーが圧倒的に多く、20代がそれに続く。中高生を対象としたメディアだ
われわれの世代には全く理解できないものなのだが、単に10代の一時的な流行ではなく、世界的なヒットの起爆剤になっている。
TikTokは、アメリカの若者の間でも人気だ。それを示しているのが、全く無名だった20歳のリル・ナズ・Xの”Old Town Road”が全米シングルチャートで、19週連続1位という史上最長記録を達成し、2019年最大のヒット曲となったことだ。
テレビなどのタイアップや、大掛かりなプロモーションがあったわけではなかった。火がついたきっかけは、TikTokに投稿された動画だった。
TikTokが受け入れられる背景には、高度の技術がある。AIの機械学習を用いて、ユーザーが最も興味を持っているコンテンツを提供するのだ。
これを提供している「Bytedance(バイトダンス、字節跳動) 」の創業者で、TikTokを2016年9月にスタートさせた張一鳴氏は、36歳のソフトウエア・エンジニアだ。その純資産は、162億ドル(約1兆7600億円)にのぼり、中国で13番目に裕福な人物だとされる。
こうしたメディアが中国で生まれたことは、驚き以外の何物でもない。時代は既に大きく変わってしまっているのだ
2017年、バイトダンスは、アメリカに拠点をおいていた音楽ビデオの投稿アプリ、ミュージカリーを約10億ドル(約1080億円)で買収した。
アメリカ議会は、TikTokでデータ流出や投稿内容の中国当局による検閲などの疑いがあるとしている。
.
野口 悠紀雄
https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20191222-00069328-gendaibiz-cn&p=1