
このような複雑なことが背景にあります:
教えて!尚子先生
ユダヤ人の定義は何ですか?
【中東・イスラム初級講座・第33回】
https://diamond.jp/articles/-/91886
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ユダヤ人に「定義」が必要なわけ
そもそも、なぜユダヤ人に「定義」が必要なのでしょうか??
それはイスラエル建国以降、すべてのユダヤ人がイスラエルの市民権を獲得する権利を有しているためです。
ユダヤ民族には、周知のようにナチス政権によって虐殺されたという過去だけでなく、長い間迫害されてきた歴史があります。そのため、ユダヤ人にとって国家を建設することは悲願でした。
1948年のイスラエルの建国宣言では、ユダヤ人が自らの国家をつくることは、ユダヤ民族の歴史的な権利であり、自然権であるとされ、それまでの迫害の歴史を鑑みて「イスラエル国家は在外のユダヤ人に門戸を開放する」と述べられています。
つまり、世界中のどこに居住していたとしても、ユダヤ人であればイスラエルに「帰還する」権利を有していると定められているのです(居住国で二重国籍が不可の場合はどちらか一方のみを選択しなければなりません)。
そして、この原則は1950年につくられた「帰還法」によって具体化されています。
帰還法の第1条では、「すべてのユダヤ人は移民として本国に入国する権利を有する」と規定され、
第4条では、「この法律ができる前に移住したものも、イスラエルで生まれたユダヤ人も、法律制定後の移民も、すべてのユダヤ人が同等とみなされる」と規定されています。
「ユダヤ人である」と認定され、その人がイスラエルに居住したいと希望すれば、その人がどこで生まれようともどこに住んでいようとも、現在イスラエルに住んでいる市民と同等のイスラエル市民権を有することができるのです。
1970年に帰還法は改正され、帰還できる対象者が明文化されました。それによれば、帰還できる人の範囲が、「ユダヤ人で宗教を自発的に変更した人を除き、ユダヤ移民の配偶者、およびその二世代にわたる子孫とその配偶者」までに拡大されています。
この改正と同時に、ユダヤ人の定義が示されました。帰還法でいうところのユダヤ人とは、「ユダヤ人の母から生まれた子ども、ユダヤ教に改宗したもの、そして他の宗教の成員ではないもの」を意味するとされています。
「他の宗教の成員ではない」という条件が付け加えられているものの、帰還法は宗教法(ハラハー)での定義とほとんど同じになっています。つまり、帰還法での定義も、先ほど説明したように、定義のようにみえて定義ではないのです。
この定義以外、イスラエルでは明文化されたユダヤ人の定義はありません。なぜなら、この問題を突きつめることは、イスラエル社会の中での世俗的勢力と宗教勢力とのはげしい綱引き合戦に発展してしまいかねないためです。
そのため、結論をだすことを棚あげしてきたのです。ユダヤ教徒=ユダヤ人なのだから、ユダヤ人はみな宗教的なのでしょう?と考えてしまいがちですが、他の国と同様に、世俗的な勢力も宗教的な勢力もあり、決して一枚岩ではありません。
国家世俗勢力 VS 宗教勢力
ユダヤ国家を建設しようとする考え方、いわゆるシオニズムについては、「【第16回】第二次世界大戦後、なぜイスラエルが建国されたのですか?<前編>」においても説明しましたが、「建国」という目的では一致していても、それを実現するための方法には多様なアプローチがありました。
とくに20世紀初頭から建国の時期においては、集団農場(キブツ)をつくり、社会主義を標榜するシオニスト(シオニズムを肯定する人々)の勢力が最も優勢でした。
彼らはユダヤ人を宗教集団というよりは、むしろ「民族」として捉えていました。
その結果、イスラエルは宗教国家ではなく(ユダヤ教を国教とはせず)、「政教分離」の原則にもとづく世俗的な国家として出発したのでした。
ところが、いざ建国してみると宗教勢力からの反対は根強く、政権に就いた世俗的に国家建設を進めようとする者たちは、内部分裂を避けるためにも、宗教勢力に妥協せざるをえませんでした。
妥協の例としては、安息日の承認、出生・婚姻・相続など人々の生活にかかわる問題をハラハーに従ってラビ(宗教的指導者)法廷管理下に置くこと、正統派の人々に対する国家からの不干渉(兵役の免除や独自の学校運営)などが挙げられます。
そして、この誰がユダヤ人かという問題も、世俗勢力と宗教勢力の対立する点となっているのです。たとえば、雑婚で生まれた子どもの場合、内務省は両親が希望すればその子どもをユダヤ人として登録できるとしようとしたにもかかわらず、「出生」にかかわる問題はラビの権限下にあると宗教勢力から強い反発を受けた結果、「他の宗教に改宗していなければ」という条件が追加されることとなったといわれています。
雑婚のケースと同様に、1970年の帰還法の改正において、「他の宗教の成員ではない」と宗教の条件が付け加えられていますが、本来ならこれは「政教分離」の原則とは相容れない条件のはずです。
