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ウイグル問題、37ヶ国が中国擁護……国際的非難かわす中国の2つの戦略
Jul 23 2019

 
 Phil Pasquini / Shutterstock.com

 7月上旬、日本は中国による少数民族ウイグル族への処遇を非難する書簡に、フランスやドイツ、英国など22ヶ国とともに共同署名した。

 

中国西部新疆ウイグル自治区では、北京によるウイグル族への弾圧や人権侵害が横行しており、100万人ものウイグル人が「職業訓練所」という名の収容所での生活を余儀なくされているという。

 

 

しかし、ロシアや北朝鮮、パキスタン、シリア、アルジェリア、サウジアラビアやエジプトなど37ヶ国中国を擁護する立場をとっている。

 

 

中国はいかにしてウイグル問題での非難をかわし、支持を得ようとしているのか。これには大きく中国の2つの戦略があると考えられる。

 

経済的利益を優先するイスラム諸国


  まず、中国には、経済関係を強化することで各国からの非難をかわそうとする狙いがある。中国の一帯一路構想が中東やアフリカにも積極的に展開されていることは有名な話であるが、それによってイスラム諸国は中国と経済的関係を深めている。


 パキスタンは「中パ経済回廊(CPEC)」によって中国依存を深め、サウジアラビアのムハンマド皇太子は今年2月に中国を訪問して、一帯一路で経済協力を強化する姿勢を示した。

 

現在、イスラム諸国自身が、イスラム教徒の国際的連帯より経済的利益を優先する状況にあり、言い換えれば、一帯一路によって、イスラム諸国が中国を非難できない状況にあるともいえる


◆テロ問題を巧みに利用する中国


  次に、テロ問題の国内的利用である。9.11以降、世界では米国主導の対テロ戦争が激しくなり、アルカイダなどイスラム過激派をどう根絶するかが国際社会の最大の関心事になった。そのようななか、ウイグル族の過激派メンバーで構成される「東トルキスタン・イスラム運動(ETIM)」や「トルキスタン・イスラム党(TIP)」の動向にも注目が集まり、アルカイダとの関係性が一部で指摘された。

 

また、近年では、ISに参加するため中国人数百人がシリアへ渡った、TIPがシリア北部に拠点を築いている、などの指摘がなされている。

 

 このようななか、中国は国内のウイグル問題をグローバルなテロ問題と関連づけ、それを政治的に強くアピールすることで、諸外国からの非難をかわせる環境を作り出した。ウイグル問題で中国を非難したい米国としても、同問題がアルカイダやIS絡みの問題となると、自国の安全保障に関わる問題となり、大きなジレンマを感じることになる。

 

 今回、中国を擁護する立場を取った国々は、北京と同じように少数派イスラム教徒、またテロとイスラム過激派の問題を抱えている

たとえば、

 

ロシアはカフカス地方のイスラム過激派、

 

エジプトはシナイ半島のIS系組織、

 

シリアはIS残党勢力やTIP、

 

アルジェリアは「マグレブ諸国のアルカイダ(AQIM)」

 

などの問題を抱えており、中国はそういった各国の事情を理解していることだろう。

 

こういった政治、経済面での中国の存在感が高まってくると、それに多大な影響を受ける国々は、ウイグル問題やチベット問題などの人権問題に対しいっそう目をつぶるようになると考えられる

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Text by 和田大樹
https://newsphere.jp/world-report/20190723-2/