『大甲子園』、大会10日目第4試合、青田vs兼六学園について書いていきます。
「光が勝ったか」
第4試合は青田vs兼六学園である。中西球道が颯爽と登場した。眼前では青葉城の富澤と伊達が砂をスパイク袋に詰めていた。
「それにしても第4試合っていうのは、ちょっとやだよな」
水田あたりが口ごもる。えーじが
「球道、余計なことは考えないじゃん」
と言う。
「俺は言ってないぜ」
と球道は笑顔で返した。
1年生の夏、青田高校甲子園初出場の試合。博多どんたくに敗れたのは第4試合だった。
「第4試合って、俺達勝った時そうだったよな」
青田のアルプススタンドに現れたサッシーが言っていたのはここだけの話である。
この日博多どんたくのメンバーで球道の応援に来たのは悪道、サッシー、剣の3人だ。悪道とサッシーは江川学院戦(あの時は悪道と吉武だったが)同様、鈍行列車を乗り継ぎ球場前で徹夜。第1試合から観戦していた。
一方剣は大学のセレクションを受け、帰路に甲子園に寄ったものだった。
「準々決勝は一男と吉武も来るタイ」
「そう、悪道くんありがとう」
「俺達が応援したいだけタイ」
悪道は球道の母(中西愛子)と挨拶をかわす。サッシーは
「アイス3つ」
「ありがとうございます」
と、買い物をしていた。そこへ剣が戻ってきた。
「剣、アイスだ」
「おう、すまんな」
3人並んで座る。悪道がさっそくパッケージを破っていると
「悪道、お前前の試合観戦していたよな」
「そうタイ。なんかあったタイ?」
「前に行ってブルペンの球道を見ていたんだが」
剣によると、投球フォームのバランスが少しおかしいという。
「やっぱりケガが完治してないんだろうな」
とはサッシーの言葉だ。
「なんか(投球)フォームに違和感があってな」
剣が言った。
「前の試合は加減していたように感じたけど、フォームが変とは思わなかったタイ」
「吉武もそう言ってたよな。加減していたって」
「気のせいだといいが、ちょっと気になってな」
試合が始まった。球道がマウンドにあがった。
「今日は力をいれていくか」
唸り声をあげ、投げたストレート。
「ボール」
140kmは出たが投げた瞬間わかるボールだった。そしてそれが4球続いてフォアボール。
「ボール」
さらにボール球が続いた。
「タイム」
キャッチャーのえーじが球道に歩み寄る。それを見て才蔵や空草も集まった。
「なんだえーじ、まだ始まったばかりだぜ」
「始まったばかりだからきたじゃん」
えーじが言うには、左腕のケガ明けの影響か微妙にフォームが違うように感じるという。コントロールが狂っているのもそれが理由じゃないかという。
「えーじ考えすぎだろ」
と球道は返すが
「兄ィ、2年前の再現は困るぜ」
才蔵の言葉に
「2年前の再現?」
「博多どんたく戦のことだよね。あの時も第4試合だったし」
空草までいう。
「なんだよお前達。俺がまたフォアボール連発すると思っているのか」
「現にストライク入ってないじゃん」 「兄ィ、再現ついでにピーで中断は困りますぜ」
「昨日はアイス食ってないよ」
全くこいつらは、と球道は思ったがストレートが外れているのも事実だ。
「今日は150kmはいらないじゃん」
えーじの言葉に球道も納得した。
「それじゃあえーじ、リードを頼むぜ」
「さっきのストレートが見せ玉になっているからカーブからじゃん」
打球はセカンドゴロ。勝又がさばき、空草にトス、そしてダプルプレー。
そういや2年前のチームに勝又はいなかったし、空草もここまで上手くなかった。あの時とはチームの守備力がかなり違っている。
「今日はバックを信頼してやるか」
「あのタイム以来、コントロールは落ち着いたみたいだな」
「球道らしくないピッチングだがな」
「とりあえず勝つことバイ」
アルプススタンドではそんな会話がされていた。
「キャッチャーの力だな」
剣がうなづく。
「ピッチャーは好投したらすぐにでかでかと取り上げられるタイ」
「キャッチャーのおかげもあるのにな」
言いながらサッシーはバツ悪そうだ。
「心当たり、あるタイね」
「だろうな」
そう言って、3人して笑った。
(続く)