青田vs江川学院戦について、青田寄りの色々な立場から中盤の攻防を書いていました。江川学院が青田のエラーで反撃、4−3、1点差に追い上げました。


「球道、くさるな」

シゲ監督(大下茂雄)から声が飛ぶ。マウンドに来たえーじ(大池英治)も

「花水や片平を使った以上、こうなるのはわかってたじゃん」

と、小声で言う。

「ああわかったよ」

球道(中西球道)はうなづく。

「よーし、気合いをいれるか」


後続を絶った球道。

「逆上はしていなかったようだな」

「それだけが心配だったタイ」

アルプススタンドで悪道(山本又一郎)と吉武(土井垣吉武)が安堵の声をあげた頃、博多では

「球道、それでいいんだ」

「全く、心配させやがって」

的場とサッシー(酒森圭一)が安堵の声をもらしていた。


そんな中、違う目でこの試合を見ていた者がいた。剣志郎である。

この年代、右投手で好投手と騒がれているのは球道をはじめ里中、不知火、真田、太平など多数いる。左腕では坂田、藤村、中らと同評価にあると思われている剣だ。

剣はプライドの高いタイプである。

「左腕No.1は俺だ」

という意識は当然持っていた。しかし証明の機会のはずの夏の甲子園に出られなかった。

「中とはどんなピッチャーなのか?」

球道を物差しに比較しようと思っていた。そして、手負いとはいえ球道が中に負けるようなことがあれば自分は戦わずにして中に負けたことになると思っていた。


「これ以上の失点はできない」

試合は後半戦に入った。中はストレート中心のパワーピッチングに切り替えた。中のストレートに力負けしないバッターは中西、大池、才蔵の1〜3番だけだ。丁寧に投げるのはそこだけでいい。

「ストライク、アウト」


「あとは反撃だけだ」

意気ごむ中と江川学院だったが、中西は簡単なピッチャーではない。腕の怪我の影響か、ストレートは130km台後半が多いが、コントロールも悪くない。0行進が続き、そして9回。

打順は2番から。

「出てくれよ。そしたら俺が返すからな」


9回、マウンドに上がる前である。

「えーじ、この回は思いっきりいくぜ」

「わかったじゃん」

えーじはサインを出さなかった。全球ストレート。ミットはど真ん中に構えた。

「ストライク」

いきなり145kmのストレート。たじろぐ間もないくらいテンポよく快速球が続き三振。

「よっしゃ」


「球道くん、やっぱり手加減していたね」

配達に向かう途中、電器屋の前でTVを見た一男は呟いた。

「この速球を待ってたってんだい」

「ああ」

サッシーと的場が声を交わす。

「雄叫びが聞こえそうね」

とは結花の言葉だ。そんなことを言っているうちにツーアウトとなった。


「145km、なんとかする。テンポがいいということは単調だからな」

中はバッターボックスに入った。

「ストライク」

速い。前の2人に投げたボールよりも間違いなく速い。

「打たねば」


「えーじ、次はインコースだぜ」

「わかってるじゃん」

2人のアイコンタクトがあった。インコースで気押した。追いこんだ。

「えーじいくぜ」

「ど真ん中じゃん」

再びのアイコンタクトのあと

「うおおお」

球道が雄叫び、ストレートはど真ん中へ。

中は強振、も空振り。

「ストライク、バッターアウト。ゲームセット」

バックネット裏に陣取るスカウトの計測では、151kmと表示されたいた。


「やったタイ」

「最後にスカッとさせてくれたぜ」

悪道と吉武が喜ぶ。9回のピッチングを見ただけでも、来てよかった。吉武はそう思った。

「応援ありがとう」

球道の母が声をかけてきた。

「おめでとうございます」

しっかり返したのは吉武だった。


青田の校歌が終わった。アルプススタンドの挨拶に来た青田の選手達。

「球道〜」

「おっ、悪道と吉武か」

球道が手を振る。すると

「今日みたいな試合をしていたら結花が怒るタイ」

と悪道が叫び、苦笑いする球道だった。


といったところで、今回はここまでにしたいと思います。

次回から「明訓vsりんご園農」の話に移ります。