『ドカベン』に出てきて『大甲子園』以降に出てこなかったキャラの高校野球引退後スピンオフ、中山畜産の選手達でついて書いていました。
「豊臣」
「はい」
「残念だが、今のお前なら採用しない」
驚く豊臣を諭すように、中山校長は伝えた。今のままでは今の豊臣以上には選手達を育てられないこと、またコーチ専属ではそんなに給料も出せないことも説明した。
「じゃあ、どうしたらいいんですか」
「勉強してこい」
最低でも大学に行ってこい。全国からいろんな野球をしてきた奴らがいるだろう。そういう連中どうし交わることも勉強になるだろう。
大学卒業後すぐに中山畜産に戻ってきたいのなら少なくとも教員免許は取ってこい。それなら教師として雇ってやれる。
もちろんすぐに戻ってこなくてもいい。どんどんいろんな野球を勉強してこい。
「お前の成長が、未来の中山畜産野球部の成長だ。でっかくなってこい」
そして4年の月日が流れた。山城ら中山農機就職組は、会社近くのグラウンドに集まっていた。
彼らは中山農機に入るとすぐに草野球のチームを結成していた。そして休日に野球を楽しんでいた。
「山城、その話本当か?」
「本当だ」
山城によると、来春の大卒の求人に脇坂が応募してきたという。
「なんだかんだで脇坂も戻ってくるんだなあ」
「そりゃあ俺たちにとれば中山畜産は我が家、中山社長はオヤジみたいなものだからな」
「新山みたいに帰ってこないのもいるけどよ」
新山はいい指導者がいるという話で東北の私立大学に進んでいた。ところが遠征で出かけた北海道で農業にハマり、そのまま就農するという。
「まあ、これからは中山農機北海道支店のいいお客さんだからな(笑)」
さらに6年の月日が流れた。いつものように草野球を楽しんでいると
「えっ、社、社長」
「おうお前たち、これは差し入れだ」
「ありがとうございます」
差し入れはスポーツドリンクだった。
「それではみんな、休憩しようか」
中山社長は山城達に話しかけた。
「お前たち、楽しそうだな」
「ええ、まあ」
「俺もそろそろこちらで監督をしようかな」
驚く山城や脇坂に笑顔で続けた。
「豊臣が帰ってきたんだよ」
半分中山監督の命令で大学に進んだ豊臣は持ち前のバッティングでチームの主力として活躍しながら、しっかりと教員免許も取った。
「お前を見にプロのスカウトも来ている。ノンプロだってどこにでも行けるだろう」
と大学の佐藤監督から勧められたか
「僕の夢は母校を甲子園に連れて行くことです」
と拒否した。すると佐藤監督は
「それなら、もっと野球を勉強したほうがいいな」
と言うと
「お前の2つ上の先輩、鷲山を覚えているか」
「鷲山先輩は覚えています。お世話になりました」
「あいつは今佐賀の高校で監督をしている。手助けを欲しがっている。行ってこい!」
豊臣は生まれて初めて九州で住むことになった。教員免許を持っていたので講師として採用され、肩書は部長ながら半ばコーチのような働きをした。
2年目にチームはベスト8進出。今年は、と意気込む3年目のシーズンが始まるなり
「佐賀は今年限り。来年の働き先は話をつけてある」
と佐藤監督から連絡があった。ようやくチームが出来上がっできたのに何故、と思っていたら
「このままでは鷲山となあなあになるだろう。それに、早く切り上げないと帰られなくだろう」
いずれ中山畜産に戻りたい豊臣は佐藤監督に従った。
次の赴任地は新潟だった。11月になると時雨模様の日が続き、そして雪の季節になる。その間は土の上での練習ができない。最初は
「邪魔ならどかせばいい」
と思っていた豊臣だが、毎日降り続く雪に、自分の考えの甘さを教えられた。春、土の上でノックをした時、何より自分が嬉しかった。
ここで豊臣に出会いがあった。しかもこの女性は、いずれ中山畜産の監督になるために千葉に帰りたい豊臣の気持ちを理解してくれた。千葉に帰る時には一緒に来てくれるという。
豊臣は決意した。いつまでも彼女を待たせるわけにはいかない。
「佐藤監督、申し訳ないのですが」
「わかった。今の学校に失礼がないようにしてから立ち去れよ」
「はい」
中山社長の話は終わった。
(すいません、長くなりました。もう少し豊臣の話を続けます。以降次回です)