さて、東東京大会前の巨人学園スピンオフの続きである。
翌日、巨人学園は高野連に事の顛末を報告。そして秋季大会を辞退した。意外にみんな明るかった。
「さあ、いこう!」
「おお」
そこに警察から帰ってきた堀田がやってきた。
「堀田さん」
「一球、すまん」
堀田は土下座をした。
「土下座なんてやめてください。堀田さんは人間として間違ったことはしてないんですから」
「いや、ワイは・・・」
「そうだぜ堀田、一緒に野球をやるぞ」
優しさが逆に堀田にはこたえた。堀田は立ち上がると
「すまん!」
と叫び、どこかヘ走り去る。
「堀田さん」
一球の声は聞こえていないのだろうか。
数日後、高野連から処分が決まった。堀田が暴力をふるったのは女子高生の保護の為であり、相手から先に手を出しているということで、正当防衛であると判断された。ただ、酒を飲んだこと、酒の上での暴力であったことが問題とされ、半年間の対外試合禁止処分となった。
「夏は残ったわけだな」
「目標がある方が張り合いがあるしな」
みんながそれぞれ前向きな言葉を口に出す。中でも
「対外試合禁止でよかっただーよ」
「九郎さん、何を言うんだ」
「下手がばれないだーよ」
はみんなの爆笑をさらった。
「あとは堀田だな」
練習中、ロードワークがてらに探すというのもやってみたが、堀田は見つからなかった。巨人学園の選手ばかりでない。
「俺も協力するぜ」
と、ライバルで協力してくれる者もいた。特に神宮高校では別メニュー調整をしている五味が走り回ってくれた。が、見つからなかった。
半年が過ぎ、春になった。堀田は見つからなかった。
「堀田が帰ってくることを前提にチームを組むのか」
「もちろん。信じていますから」
「とはいえセカンドは連携プレーが多い。復帰が遅れると練習が足りなくなるぞ」
ピッチャーは一球、キャッチャーは九郎に任せることは決まっていた。野球に詳しくない一球をサポートするため、ファーストに一角が入る。合戦を基準に物を考える一球は、一角を右に置くからには、司を左に置きたいということで、司がレフトになった。
「うーん」
一球にとっても、堀田はセンターラインに置きたいが、セカンド、ショートは間に合わない可能性がある。
「サードか」
「ですね」
こうして新生巨人学園のラインナップが固まっていった。
堀田が見つからないまま、夏の東東京大会が始まった。巨人学園はもちろんノーシードである。しかし一球の荒れ球はマトを絞らせない効果があったし、一角、司がバットで引っ張った。気がかりだった守備も、どうにか大きな破綻もなく、巨人学園は勝ち上がった。
「ここからが山場だな」
一角の言う通り、準々決勝が昨年夏の代表校のBT学園、準決勝はおそらくライバル五味を擁する神宮になるだろう。
「さあ、いきますか」
一球はあくまでも元気だ。
BT学園戦は壮絶な試合となった。隼ら甲子園メンバーはいないが、この年のメンバーも機動力を使い揺さぶってくる。ランナーが出た時、一球はあえて無視して3塁まで与える作戦をとった。野球はホームインさえさせなければいい、一角の進言もあった。
巨人学園も一球が足で掻き回すのを常套手段としていたが、機動力で掻き回すことが得意なBT学園は、対処も得意だった。動揺することもなく、きっちり守っていく。
8回表のBT学園の攻撃。フォアボールでランナーが出た。ここでBT学園はエンドランを仕掛けてきた。
一球の投げた球は左打者のアウトコースに高く外れた。バッター紀伊の懸命に当てにいった打球は、ふらふらとショート、サード、レフトの間に上がった。
「まずい」
BT学園のランナー日本海は一か八か帰塁せず走っている。ショート、サードの方がはるかに近い打球だが、巨人学園のショート、サードでは取れそうにない。
ここで「続く」です。