問題は第3試合である。習志野の応援の空間を一緒に体験したい気持ちもある。ただ、星稜は隣県だし、4番の内山は富山県出身である。敵として見る気はない。
結局、前日ほんわか売り子に
「明日もここにいるよ」
と言った事と、遠目で熊本西の行列が短かった事から1塁側とした。
 
中央特別自由席や内野席はそこそこの行列になっていた。3塁側アルプス、つまり智弁和歌山サイドもそこそこの人数になっている。ただ熊本西の列は、いやまだ列になっていないと言った方がいいだろうか。前から3列目という望外の事となった。
開場は8時である。覚悟がきまればなんという事もない。朝軽食をとったので腹はすかないし、タブレット1つで時間潰しは十分である。例年に比べて時間を短く感じた。
時々後ろを見返す。6時頃には中央特別自由席の列は甲子園駅の出口近くに達していた。まだこちらは数えるほどである。
まもなく開場という段階になって隣の列に並んでいたおっさんが話しかけてきた。かつての8号門クラブの人達が警察沙汰の事件というかトラブルとなったという話であった。まだやってんのかよ、と思った。
 
開場。すんなりとチケットを買えた。1塁側のアルプススタンドに向かおうとすると、他の席のチケットを購入した者が走ってきてぶつかりそうになった。しつこい位に
「走らないで」
と言っているのにこれである。こういう事をやっているから高校野球ファンに対する社会の目が悪くなるのだ、と思った。
 
1塁側のアルプススタンドなので入場は2号門になる。向かうと青いジャンバーを着た行列ができていた。
「これは入場にどれだけ時間がかかるんだ?」
思い出す。昨年の選抜でも彦根東の大応援団が2号門から入場していた。通常応援団は1号門から入場しているが、1号門と2号門両方開けると、2号門から入った一般人が応援団のいい席を占拠する可能性がある。応援団がしっかりといい場所を占拠する為の方法だな、と思った。
どうにか席に着いた。前日よりもちょっと上の席である。ここまでチケット購入から14分かかっていた。
 
 
4時過ぎにカップ麺とサラダの朝食をとったのみだったのでさすがに腹がへってきた。ビールを飲む時の事を考え焼鳥にしようかとも思ったが、とにかく米が食べたいのでカレーを食べた。
ビールは、といえば例のほんわか売り子が見あたらないのである。前日
「今日と明日だよ」
「明日は智弁(和歌山)とかですか?」
「智弁(和歌山)あっち(3塁側)だよ」
「智弁(和歌山)あっちでした?」
なんて言っていたから3塁側にまわったのかもしれない。いや、それでも
「熊本西は地方の公立校だから売れると思うよ」
「明日もいろいろ教えてください」
ってやりとりをしていたから1塁側で間違いない筈だが・・・
とここまで考えてわかった。私がほんわか売り子に酔った勢いで説明できるほどになったきっかけは、2012年春の地球環境の時の売り子がきっかけである。あの売り子のようなやり手の売り子ならば、第1試合は熊本西を選ぶだろう。いわばやり手の売り子にはじかれた形だろう、と。
ほんわか売り子に負けないほどのルックスの売り子とか、いろいろな売り子がいたが食指が動かない。結局この日私はビールを全く飲まなかった。
 
 
熊本西のアルプススタンドでは
「青いジャンバーを着た人、前の方にお願いします」
という声が響く。テレビカメラに映る前の方はしっかりと応援の形を作りたいだろうから理解できる話だ。
一方智弁和歌山のアルプススタンドに目を移すと、名物の“C”の人文字が出来るよう場所を取り準備されているが、肝心の一般生徒達の入場が遅れている。準備の状況は非常に参考になるが、間に合うかどうか気になってしまう。
 

 
結局人文字の完成は試合開始後になったのだが。
 
 
試合が始まった。立ち上がりはむしろ熊本西が優位に試合を進める。強振してくる智弁和歌山打線がハマっている感じだった。
そして熊本西が先制。アルプススタンドに一瞬希望の笑顔が溢れた。
しかし3回表、智弁和歌山の攻撃が2まわり目に入ると、バッティングのスタイルを変えてきたのが如実にわかった。
 
 
私はかつて漫画『プレイボール』に描かれたシーンを思い出していた。強振しハマった東実はミートバッティングに切り替えて墨谷を攻略したよな・・・同じ事が今起きている。
 
(続く)