カレーを食べているうちにだんだん明るくなってきた。報徳学園の選手がアップを始めた。甲子園でアップが出来るのは第1試合のチームの特権である。涼しい時間帯だし、開始時刻もずれる心配はないからだ。
そのうちに観客が増えてきた。まず暑さ対策にカチワリを買った。
続いてはビールである。Massa氏は適当な売り子から買おうとするが、売り子は吟味した方がいい。ルックスどうこうではなく、ホスピタリティーである。ただ売っているのか?第1試合で早い入場という事は、第1試合(この場合は愛工大名電)目当てとは限らない。その辺りがわかった行動が出来るかだ。
4人目位に
「これは!」
という子がきた。ルックスは私の好みに近いが、何より熱意がある。他の売り子は広い通路で
「ビールいかがですか?」
と言って反応がなければすぐ移動しているが、彼女だけは最上段まで必ず歩いている。こういう子に稼がせてあげたい(歩合制だから)。
「ビールひとつ」
するとまだ朝早いというのに汗だくだ。そして
「ここ涼しいなあ」
なんて言ってくる。
「来たとき位は涼んでいかないと」
なんて返すと
「何時ごろから来てたんですか?」
と返ってきた。
「2時だけど」
「2時!」
「だって今日(大阪)桐蔭あるじゃない。それでも凄い人だったよ」
去年の大阪桐蔭の試合の日は3時三宮出発だったが、並べた場所は今年よりかなり前だった。
「(大阪)桐蔭見たいんやけどな」
なんでもシフトの関係で仕事は16時30分までだそうだ。この時、私は第3試合(済美-高知商)が乱打戦になる可能性が高い(済美は2回戦をタイブレークの結果とはいえ13ー11だったし、高知商は1回戦を14ー12で勝っている)ので、16時30分なら試合開始に間に合うのでは?と思った。
「満員やろうけどな」
本日、私達のメインは高岡商だが、多くは大阪桐蔭だ。そして早くから列を作っている。難しいだろうと思った。
 
ビールを飲み始める。気分がいい。1年に春と夏だけの至福の時である。
 
さて、まもなく試合開始である。両校のメンバー紹介に先駆け、兵庫県と愛知県の高校野球の歴史が紹介された。
 
 
また、100回大会では毎日、第1試合の前に始球式を行っている。8月16日は板東英二である。板東英二は60年前の8月16日(第40回大会の準々決勝)で徳島商のエースとして魚津と戦い、延長18回引き分け再試合となっている。この試合で25奪三振を記録し、1大会83奪三振の記録もある。正にレジェンドだし、意味のある日である。
私は60年後の8月16日の第4試合で魚津と同じ富山県の高岡商が登場し、徳島商と同じく優勝候補の大阪桐蔭と戦うという因縁が面白かった。
そして板東英二の始球式だが、78歳とは思えないピッチングに驚いた。
 
 
報徳学園vs愛工大名電の試合がスタートした。立ち上がり、愛工大名電が先制する。これは強か女子浮かれているだろうと思っていたら、3回裏に報徳学園が逆転する。
私は愛工大名電のサイドにいる。愛工大名電は吹奏楽部のレベルも高く充分満足だが、この試合の両校の応援を見聞きしての楽しみは別にあった。報徳学園の“アゲアゲホイホイ”である。
報徳学園がアゲアゲホイホイのオリジナル校であるのは知っていた。オリジナルのアゲアゲホイホイを聞くのは楽しみでもあった。
その旨をMassa氏に伝える。Massa氏もアゲアゲホイホイが楽しみになったようだ。
 
 
さて、例の売り子が再びやって来た。売り子が自分を認知してもらえるように、阪神の選手のタオルを首に巻いたり、バッジを帽子につけたりしているのをよく見かける。ビールを買いながら
「北條かー」
と思っていると、あれっ。いくつかあるバッジの中に八戸学院光星のユニフォームがある?
「光星?」
思わず呟くと、前日の第4試合(龍谷大平安ー八戸学院光星)を観戦していたらしい。
「昨日はオフだったの?」
と聞くと、そうではなくて仕事が16時30分までとなっているという前述の話から、バイト終了後に観戦したそうだ。終了が16時30分で着替えると17時になるそうだ。そこから観戦したというが、よっぽど高校野球が好きなんだな、と思った。
 
ビールがあればつまみが欲しくなってくる。という訳で私はつまみに焼鳥を買ってきた。
 
 
(続く)