2024年5月24日付 SNEPシングル&アルバムチャート
※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)
【シングルチャート】
1 Imagine - Carbonne
2 Boucan - KeBlack
3 Spider - Maître Gims, Dystinct
4 Mon amour - Slimane
5 Gata Only - FloyyMenor, Cris MJ
6 The Sound Of Silence - Disturbed
7 Beautiful Things - Benson Boone
8 Petit génie - Jungeli, Imen ES, Alonzo
9 Mélanine - Heuss L'Enfoiré
10 Position - Franglish
【アルバムチャート】
1 HIT ME HARD AND SOFT - Billie Eilish
2 Essentiels - Slimane
3 The Tortured Poets Department - Taylor Swift
4 Pygmalion - Vacra
5 Radical Optimism - Dua Lipa
6 Chambre 140 (Part.3) - PLK
7 Pyramide - Werenoi
8 La symphonie des éclaires - Zaho de Sagazan
9 Darvaza - Timal
10 Décennie - JuL
Carbonne(カルボンヌ)の「Imagine」が今週もシングル1位。 Maître Gims先生とDystinctの「Spider」が3位に浮上しました。シングル9位に「Mélanine」が登場したHeuss L'Enfoiré(ヒュース・ランフォワレ)は31歳のラッパーで、アルジェリア系。シングルでは2019年に「Khapta」が最高1位、「Moulaga」が最高2位、2023年に「Saiyan」が最高2位になった実績があります。HeussはHeustleur(ハスラー)の略で、ステージネームは「愚かなるギャンブラー」という意味。余談ですが、ビリヤードのプレイヤーをハスラー (Hustler)と呼ぶのは1961年のポール・ニューマン主演の同名映画の影響で、自由と欲望の出版王ラリー・フリントが1974年に創刊したポルノ雑誌「ハスラー」は「売春婦」という意味が由来です。
アメリカ・LA出身のBillie Eilish(ビリー・アイリッシュ)が5月17日にリリースした3年ぶり3枚目のスタジオアルバム「HIT ME HARD AND SOFT」が、フランスのアルバムチャートでもいきなり1位に初登場。2020年のグラミー賞で新人賞、最優秀レコード賞、最優秀楽曲賞、最優秀アルバム賞など6冠を史上最年少で受賞した「驚異の10代」も22歳になりました。
アルバム4位に「Pygmalion」がチャートインしたVacra(ヴァクラ)は、フレンチラップの世界にときどき現れる「正体不明」がウリの男性ラッパーですが、覆面はしていません。2020年、SNSに「Plan Sequence」をアップロードするや400万以上の再生回数を記録し、2022年の「Tiki Taka」、2023年の「XOXO」もヒットしました。5月17日発売の17曲入りファーストアルバム「Pygmalion」ではPLK、Soolking、Josmanら先輩ラッパーとコラボするほか、「Les Montgolfières(熱気球)」でルアンヌ・エメラ(Louane Emera)とデュエットしています。
アルバムタイトルのPygmalion(ピグマリオン)はギリシャ神話に登場するキプロス島の王で、自ら彫刻したガラテアへの「人形愛」を憐れんだ愛の女神アフロディテがガラテアを人間の女性に変身させました。オードリー・ヘプバーン主演の映画『マイ・フェア・レディ』の原作で、英国の作家バーナード・ショー作の戯曲のタイトルにもなりました。Vacraには「Galatée」というEPもあり、この人形愛神話がよっぽどお好きなようですね。
Timal(ティマル)
今週のアルバムチャート9位に、26歳のラッパーTimal(ティマル)の「Darvaza(ダルヴァザ)」が入りました。タイトルは中央アジアのトルクメニスタン共和国にあった村の名前で、砂漠にあいた穴から天然ガスが噴き出し、1971年に旧ソ連の地質学者が点火した炎が半永久的に燃え続ける、人呼んで「地獄の門」があることで知られています。独裁者として有名だったニヤゾフ終身大統領の命令により2004年、「不吉な場所だ」という理由で村人は全員移住させられ、建物は取り壊され、元の砂漠に戻りました。
Timalは1997年7月、パリの北の郊外、7月26日に始まるパリ五輪でメインスタジアムになるフランス競技場(Stade de France)が建つセーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県サン=ドニ(Saint-Denis)で生まれ、少年時代はパリ郊外の移民の街を転々としていたようです。本名はRuben Louisといい、ルーツはカリブ海に浮かぶフランス海外県グアドループ(Guadeloupe)島。19歳だった2016年、ラッパーを志してYouTubeにフリースタイル動画をアップロードしたことで音楽キャリアが始まりました。
2018年に「Trop chaud」でアルバムデビュー。2020年にセカンドアルバム「Caliente」、2021年にサードアルバム「Arés」を出しています。シングルではGazo(ガゾ)をフィーチャーした「Filtré」(フィルターという意味)が、2022年の2月25日付、3月4日付のSNEPシングルチャートで1位までのぼりつめるという実績を残しています。
アルバムデビュー前からMaes、Leto、PLK、SDMら有名ラッパーたちとコラボできるような「期待の若手」だったようで、その後もJuL、Heuss L'Enfoiré、Booba、Gazo、Alonzoらがアルバム制作に参加し、若くしてヒップホップ界のメインストリームを歩んでいる感があります。
5月17日リリースの「Darvaza」はスタジオアルバムではなく6曲入りのEPで、全曲、誰ともコラボしておらず、純粋に彼がやりたい音楽が聴ける「私家版的構成」になっています。今回はその収録曲から「Paris」をお聴きください。リリック(Paroles)もヤバければPVもヤバく、「俺はパリの郊外(Banlieue)、『地獄の門(La Porte de l'enfer)※』のようなストリートで生まれ育ったラッパーなんだ」と、主張しているかのようです。
※「この門に入る者よ、一切の望みを捨てよ」(ダンテ『神曲・地獄篇』)
Timal(ティマル) - Paris
では、また来週
À la semaine prochaine!