仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年2月27日号

 

2024年2月23日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Pyramide - Werenoi

 2 Ceux qu'on ètait - Pierre Garnier

 3 Petit génie - Jungeli, Imen ES, Alonzo

 4 I Love You - Dadju, Tayc

 5 Dans un verre - Werenoi

 6 Maudit - Werenoi

 7 Dolce Camara - Booba

 8 Animal - Werenoi

 9 16.02.2024 - Werenoi

 10 Location - Werenoi

 

【アルバムチャート】

 1 Héritage - Dadju,Tayc

 2 Pyramide - Werenoi

 3 Chambre 140 (Part.3) - PLK

 4 Freestyle Covid Part.3 - Menace Santana

 5 AD VITAM ÆTERNAM - Booba

 6 La Symphonie des éclairs - Zaho de Sagazan

 7 Le chant est libre - Patrick Fiori

 8 La route est longue - JuL

 9 LA MELO EST GANGX - Gazo x Tiakola

 10 Décennie - JuL

 

 今週のシングルチャート1位はWerenoi(ウェルノワ)の新作アルバムのタイトルチューン「Pyramide」でした。「スター・アカデミー」優勝者Pierre Garnier(ピエール・ガルニエ)は2位に後退。スペインのIñigo Quintero(イニーゴ・キンテロ)の「Si No Estás」が今週は13位になり、長く保っていたトップ10からアディオス・アミーゴ(Adiós Amigos)。

 

Dajdu & Tayc

 今週のアルバムチャート1位に、2月16日にリリースされたDadju ,Taycの「Héritage(遺産)」が初登場。収録曲の「I Love You」は今週シングル4位でした。Dadjuは大物ラッパーMaître Gims先生の異母弟で32歳。コンゴ系でパリ郊外生まれ。相棒のTaycはマルセイユ出身、カメルーン系の27歳のラッパーです。2位に初登場の「Pyramide」はWerenoi(ウェルノワ)の「Carré」以来1年ぶり3枚目のニューアルバムで2月16日発売。その収録曲は今週のシングルチャートで「Pyramide」が1位、「Dans un verre」が5位、「Maudit」が6位、「Animal」が8位、「16.02.2024」が9位、「Location」が10位に一斉に入っています。ウェルノワはセーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県モントルイユ(Montreuil)出身のラッパーで、2023年3月21日号でくわしくご紹介しています。

 

Menace Santana(メナス・サンタナ)


Menace Santana

 写真は、季節はずれのハロウィンではありません。フランスの覆面ラッパー、Menace Santana(メナス・サンタナ)の、ジャック・オ=ランタンと、映画『13日の金曜日』の主人公ジェイソンにインスパイアを受けたというマスクをつけたご尊顔です。手には武器のナタを持ってます(よく間違われますが、チェーンソーを持っているのは別の映画です)。なお、2021年に彼は「Boosk'Halloween」というシングルを出しています。

 ステージネームのMenaceは「脅威」という意味です。サッカーのリーグ・アンの強豪オリンピック・リヨン(Olympique Lyonnais/OL)のブルゾンを着ていることでわかるように、リヨン(Lyon)都市圏にあるオーヴェルニュ=ローヌ=アルプ(Auvergne-Rhône-Alps/39)県リリュー=ラ=パープ(Rillieux-la-Pape)という町の出身で、「mS」「menace」「BuuBuu」など別の名前を名乗ることもありますが、年齢などそれ以外のプロフィールは非公開で、正体が謎に包まれているのも覆面ラッパーならでは。2016年にシングル「NOIR」をひっさげてネット上に姿をあらわし、YouTube、Instagram、Spotifyなどを駆使してアメリカ起源の「ドリル・ラップ」の一ジャンル「Drill Horrocore」(ドリル・ホラーコア)を、フランスのヒップホップ界で絶賛展開しています。

 ドリル・ラップ自体、犯罪、不法行為、暴力などいけないリリック満載ですが、ドリル・ホラーコアはそれに「怪奇」や「残忍」が加わった一種の「キワモノ」。だから冗談はお面だけにしてほしいジェイソンなのです。

 そんなメナス・サンタナのスタイルがウケた時期が、フランスでも「中世のペスト、第一次世界大戦中のスペインかぜの再来か?」と恐れられ、外出制限がかけられてみんな自粛して自宅にこもっていた2020年、2021年頃の「コロナ禍」でした。アルバムとして当時、2020年に「Freestyle Covid Part.1」、2021年に「Freestyle Covid Part.2」を出し、「時流」に乗って名前を売っています。

 続いて出したアルバム「!」「Into the Dark」は「フレンチ・ドリルの新たなる希望」と音楽メディアでもてはやされました。フランス人も意外と、いやフランス人だからこそ、キワモノがお好きなようですね。

 現在は、からだにワクチンを何本も打たれたおかげか世界的にコロナ禍は下火になり、日本では「5類移行」しましたが、メナス・サンタナはあえて2月16日に「Freestyle Covid Part.3」を出し、今週のSNEPアルバムチャートで4位に初登場しました。疫病への恐怖を植えつけた死神は不死身だ。まだまだ危機感をあおるぞ、ということでしょうか?

 その新作アルバム収録曲から1月にリリースされた「Adrenalean(アドレナリーン)」をお聴きください。タイトルは気力を奮い立たせる副腎髄質ホルモンの「Adrénaline(アドレナリン)」と、ラッパー御用達の脱法ドラッグ「Lean(リーン)」を合成した造語です。リリックでは「悪魔」とか「悪夢」とか、さらにはジャンキーや下ネタをにおわせる言葉を連発。だって、顔出し禁止のキワモノですから……。

 

Menace Santana(メナス・サンタナ) - Adrenalean(アドレナリーン)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!