仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2024年1月30日号

 

2024年1月26日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Petit génie - Jungeli, Imen ES, Alonzo

 2 Ça mène à rien - PLK, Gazo

 3 I Love You - Dadju, Tayc

 4 Si No Estás - Iñigo Quintero

 5 Flashback - Favé ft.Gazo

 6 Laisse moi - KeBlack

 7 Panama - Kaaris

 8 La nuit - PLK, TIF

 9 Casanova - Soolking

 10 Il pluit à Paris - PLK

 

【アルバムチャート】

 1 Décennie - JuL

 2 Chambre 140(Part.1) - PLK

 3 Pourvu qu'il pleuve - Shay

 4 La route est longue - JuL

 5 Du peu que j'ai eu, du mieux que j'ai pu - Lesram

 6 LA MELO EST GANGX - Gazo x Tiakola

 7 Saviors - Green Day

 8 à2 à3 - Vianney

 9 Carré - Werenoi

 10 ELOWI - Yamê

 

 シングルチャート1位は今週も「Petit génie」でした。2位、8位、10位にパリ14区生まれ、ポーランド系の26歳のラッパーPLKの新作アルバム「Chambre 140(Part.1)」の収録曲が3曲も入っています。2位のGazoをフィーチャーした「Ça mène à rien」のタイトルは「それは何にも導かれない」「それは何の役にも立たない」という意味です。Kaaris(カーリス)「Panama」が7位浮上。Boobaとの「オルリー空港事件」(2020年5月19日号参照)は語り草です。

 アルバムチャートはリリースラッシュで大変動。1~3位に初登場が並びました。1位は1月19日に超大物ラッパーJuLが出した「Décennie」で「10年」という意味です。2024年は彼のメジャーデビュー10周年で、その記念盤。JuLはコルシカ系ですが、本拠地のマルセイユに移民が多いアルジェリアの90年代は「暗黒の10年(La décennie noire)」と呼ばれました。2位はPLKの「Chambre 140(Part.1)」で、(Part.1)は1月19日、(Part.2)は1月26日、(Part.3)は2月2日発売という連作プロジェクト。PLKは2023年4月21日付アルバムチャートで「2069'」が2位になっています。3位はShay(シェイ)の「Pourvu qu'il pleuve」でした。

 

Lesram

 今週アルバムチャート5位のLesram(レスラム)は、環状道路(旧・ティエールの城壁)をへだててパリ19区のビュット=デュ=シャポー=ルージュ公園に隣接するセーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県ル・プレ=サン=ジェルヴェ(Le Pré-Saint-Gervais)出身の27歳のラッパー。PLKとともに若手のラップグループPanama Bendo(パナマ・ベンド)のメンバーです。アルバム「Du peu que j'ai eu, du mieux que j'ai pu」(「俺が持っていたのはほんの少しだったが、できる限り最善を尽くした」という意味)は、1月19日に出ています。

 7位の「Saviors(セーヴィアーズ)」は1987年結成のアメリカのパンクロックバンドGreen Day(グリーン・デイ)の4年ぶり14枚目のスタジオアルバムで、1月19日発売。10位に2023年10月発売のアルバム「ELOWI」が入っているYamêはカメルーン系のラッパーで、年末からシングル「Bécane A COLORS SHOW」がヒットしました。

 

Shay(シェイ)


Shay

 1月19日リリースの4年ぶり3枚目のアルバム「Pourvu qu'il pleuve」が今週3位に初登場したShay(シェイ)は、ベルギーの首都ブリュッセル出身、33歳の女性ラッパーです。本名はVanessa Lesnickiで、父親はポーランド系ユダヤ人、母親はコンゴ系で、コンゴのユネスコ無形文化遺産の伝統音楽ルンバのミュージシャンの血を引いています。

 メンターとして彼女のデビューをアシストしたのは「オルリー空港事件」で知られる武闘派ラッパーBooba(ブーバ)で、21歳だった2011年に彼のコラボ曲の相手に選ばれ、その肝いりで2015年、25歳の時に「XCII」でシングルデビュー、2016年12月にファーストアルバム「Jolie Garce」を出しています。セカンドアルバムの「Antidote」(2019年5月リリース)はフランスSNEPチャートで最高15位、ベルギーのワロン地域(フランス語圏)チャートで最高5位になり、その名をひろく知られるようになりました。

 シェイの音楽スタイルはヒップホップをベースにトラップ、アーバンポップ、R&Bをひろくカヴァーしていて、Niska、Damso、Fally Ipupa、Benash、Freshらに加えて大御所JuLともコラボしています。歌詞の「ワルぽっさ」はBooba仕込みでしょうか? それでいてサッカーのベルギー代表でレアル・マドリードに所属するGKティボー・クルトワ選手にはゴロニャンな大ファンで、2017年には彼に捧げるシングル曲「Thibaut Courtois」を出しています。

 さて、新作アルバムのタイトル「Pourvu qu'il pleuve」は本来「雨よ降れ」という雨乞いの願い事ですが、それが転じて「雨に降られてびしょ濡れになればいい」と、自分を振った相手、悪口を言った相手などに不意の災難がふりかかるのを念じる呪いの言葉でもあります。ただの雨ならまだいいですが、近代以前のフランスの都市では「Gardez à l'eau!」(水にご注意!)と通行人に大声で警告した後、2階の窓から「汚物」を道に投げ捨てていたので、それを「雨(la pluie)」と呼ぶこともあったそうです。不注意でうっかりかぶったら、まさに災難です。

 そのアルバムの収録曲から2023年10月に先行リリースされた「Commando」(「奇襲隊員」という意味)をお聴きください。「Jolie Garce Gang(美しきあばずれギャング)」は、「La moitié des rappeuses sont d'occasion(女性ラッパーの半分は中古品だ)」と挑戦的な言葉を投げつけ、PVはハードボイルド。下手に触れば奇襲を受けてヤケドしそう。

 

Shay(シェイ) - Commando (Clip Officiel)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!