仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2023年12月19日号

 

2023年12月15日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Petit génie - Jungeli, Imen ES, Alonzo

 2 J'fais plaisir à la zone - JuL, SDM

 3 Gaza - Un jour de paix, PNL

 4 Postiché - JuL, PLK

 5 I love you - Dadju, Tayc

 6 Notre Dame - Gazo x Tiakola

 7 Flashback - Favé

 8 Si No Estás - Iñigo Quintero

 9 Bécane - Yamê

 10 La fusion - JuL Alonzo

 

【アルバムチャート】

 1 La route est longue - JuL

 2 à2 à3 - Vianney

 3 2 Bis - Florent Pagny

 4 LA MELO EST GANGX - Gazo x Tiakola

 5 Reflets - Grand Corps Malade

 6 Made in Rock'N'Roll - Johnny Hallyday

 7 L'enfant de la pluie - So La Lune

 8 Hackney Diamonds - The Rolling Stones

 9 Que ta tête fleurisse toujours - MIKA

 10 L'Album de la promo 2023 - Star Academy

 

 前回に続いて、ヌイイ=シュル=セーヌのSNEP本部からのチャート発表時刻がずれて配信が遅れましたことをおわびします。

  シングルチャート1位に「Petit génie」が復帰。シングル2位、4位、10位を占めた「マルセイユの皇帝」JuLの新作アルバム収録曲の猛攻をしのぎ切りました。3位の「Gaza」は、パレスチナのガザに平和を取り戻そうという意志を示すユニット「Un jour de paix」とPNLによる緊急企画シングルです。9位のYamê(ヤメ)はカメルーン系のラッパー。2020年に「Bantu Mixtape Vol.1/Vol.2」で注目され、「バンツー」のタイトル通り音楽はアフリカ民族系志向。10月に新作アルバム「ELOWI」を出したばかりです。

 

JuL

  ミレーヌ・ファルメール、アンドシーヌ、レザンフォワレとともに新作アルバムが出れば必ず1位になる超大物、JuL。12月8日発売のアルバム「La route est longue」ですが、道は遠くはなく今回もやっぱり、いきなり1位でした。「マルセイユのヴェロドロームでバルサのアビダルをドリブル突破した伝説を持つ男」にとっては20枚目のスタジオアルバムになります。Alonzo、Tialola、SDM、PLK、Nazaとデュオした収録曲が今週、続々とシングルチャート上位に入りました。

  アルバム8位にローリング・ストーンズが再浮上。今週10位の「L'Album de la promo 2023」が12月8日にリリースされたStar Academy(スター・アカデミー)とはフランスTF1のテレビ番組の名前です。スターを目指す主に20代の「生徒」が旧貴族の城館を借りた「学校」で歌やダンスや芝居や身体能力(?)の「先生」から特訓を受け、毎回、番組視聴者の投票で成績最下位の3名のうち1名が「退学」させられるという芸能サバイバルコンテストで、土曜日にはゲストが登場し生徒と一緒に歌います。優勝者の特典は賞金10万ユーロとレコードデビューで、過去にはジェニフェール、ノルウェン・ルロワ、グレゴリー・ルマルシャルなどを輩出しています。

 11月4日放送開始の「新学期」シーズン11では13名が「入学」しました。今学期のゲストはデヴィット・ゲッタ、グラン・コー・マラード、ヴィター、パトリック・ブリュエル、フローラン・パニー、ヴィアネ、スリマン、ケンジ・ジラク、カロジェロ、ナターシャ・サン=ピエール、ヴェロニク・サンソン、ソフィアン・パマート、ジュリエット・アルマネ、パスカル・オビスポなど、大物揃いです。 

 

So La Lune(ソ・ラ・リュンヌ/だから月)


So La Lune

  今週のアルバムチャート7位に12月8日に出した「L'enfant de la pluie」が入ったSo La Lune(ソ・ラ・リュンヌ)は、名前の後に括弧つきで「(shames)」とつくことがあります。「残念」という意味です。何が残念なのでしょう? なぜか日本語のステージネームもあり「だから月」と名乗っています。

  1997年2月、リヨン生まれの26歳のラッパー。両親はコモロなるインド洋のほとりの島(旧フランス植民地で1975年に独立)からの移民です。10代の頃にコモロにある母親の実家で暮らしたことがあり、文化的な影響を受けています。

  2019年にデビューし、インスタグラム、ユーチューブでその人気に火がついたネットの申し子。2019年末にリリースした「Fissure de vie 23」がユーチューブで30万回以上の再生回数を記録し戦国フレンチラップシーンに乗り込みましたが、ヒップホップの主流派とは距離を置いた「ニューウェーブ・ラップ」を志向しているとのこと。PNLらフランス勢だけでなく、アメリカのKodak BlackやYoung Thug、XXX Tentacionからも影響を受けたといい、2023年のモントルー・ジャズフェスティバルにも参加。郊外(Banlieue)の地元へのレペゼンや人脈の太さでメジャーになっていくイメージのあるフレンチラップの枠に収まりきらない、とは言えそうです。

  2020年7月にミックステープ「Tsuki」を出した後、2021年には5曲入りEPを7枚連続でリリースするという大胆な売出し戦略を展開しました。曲の多くは宇宙をテーマにしたもので、1969年に人類を初めて月面に送った宇宙船「アポロ11号(Apollo 11)」がタイトルのEPもあり、そこには「Tsukito(月人)」という日本語タイトルの曲が収録されています。

  SCH、Khaliが参加した今回のファーストアルバムのタイトル「L'enfant de la pluie」は「雨の子ども」という意味。大ベテランの歌姫ミレイユ・マチュー(Mireille Mathieu)に「Les enfants de la pluie」(雨の子どもたち)という曲がありますが、特に関係はなさそうです。そのアルバム収録曲から11月16日に「Triste temps」と「Au BPM」が先行シングル発売されていますが、今回は「Triste temps」のほうをお聴きください。

  歌詞に「Où tu vas?  Le plus loin possible de Paris(拙訳:君はどこへ行く? パリからできるだけ遠くへ)」とあり、サイバーパンクの金字塔『ブレードランナー』を連想させるPVは、自ら来日して新宿の歌舞伎町や渋谷の道玄坂などで撮影されています。ステージネーム、ミックステープやEPのタイトル、歌詞、PVなどから推測するに、ソ・ラ・リュンヌは宇宙とニッポンが大好きなようです。幼少期、フランスのテレビで日本のアニメを見て育った「クラブ・ドロテ(Club Dorothée)世代」だからでしょうか? そんな「だから月」さん。フレンチラップの知名度がきわめて低い「残念な」日本ではありますが、また来日して今度はライブをやりたいとお望みですか?

 

So La Lune(ソ・ラ・リュンヌ) - Triste temps

 

では、また来週

À la semaine prochaine!