2023年12月8日付 SNEPシングル&アルバムチャート
※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)
【シングルチャート】
1 Notre Dame - Gazo x Tiakola
2 100K - Gazo
3 Petit génie - Jungeli, Imen ES, Alonzo
4 Cartier - Gazo x Tiakola
5 Flashback - Favé
6 Si No Estás - Iñigo Quintero
7 24/34 - Gazo x Tiakola
8 200K - Tiakola
9 Laisse moi - Keblack
10 Sobad - Gazo x Tiakola
【アルバムチャート】
1 LA MELO EST GANGX - Gazo x Tiakola
2 à2 à3 - Vianney
3 2 Bis - Florent Pagny
4 Made in Rock'N'Roll - Johnny Hallyday
5 Que ta tête fleurisse toujours - MIKA
6 Johnny Hallyday Symphonique - Johnny Hallyday
7 i/o - Peter Gabriel
8 KH-22 - ASHE22
9 Reflets - Grand Corps Malade
10 Dans mes cordes(Album Studio) - Renaud
「Petit génie」(3位に後退)、「Si No Estás」(6位に後退)によるシングルチャート長期政権を今週、くつがえしたのはGazo x Tiakolaでした。Gazo(ガゾ)はサン=ドニ出身、29歳のギニア系ラッパー。アルバム「KMT」が今年ヒット。Tiakola(ティアコラ)はセーヌ=サン=ドニ県(93)ボンディ(Bondy)出身、23歳のコンゴ系ラッパー。ソロアルバム「Mélo」が今年ヒット。同県出身の人気ラッパーによるデュオです。シングル1位、2位、4位、7位、8位、10位に、彼らが12月1日に出した今週アルバムチャート1位「LA MELO EST GANGX」の収録曲がぞろぞろとチャートインしています。
アルバムチャート4位、6位は故ジョニー・アリディ。6位の「Johnny Hallyday Symphonique」は12月1日発売で、彼の生前の音源と交響楽団、合唱団、楽器の独奏などを組み合わせています。2023年に続き2024年も春から全仏ヴァーチャルライブツアーが行われます。7位はUKのピーター・ガブリエル(ゲイブリエル)。70年代にジェネシス(Genesis)でフィル・コリンズらとブイブイいわせていた彼も73歳。12月1日発売「i/o」は21年ぶりのスタジオアルバムです。
アルバムチャート8位に12月1日リリース「KH-22」が入ったASHE22は1996年1月、アルジェリアの首都アルジェ生まれ、フランス国籍の27歳のラッパー。2018年にデビューしリヨンを拠点に活動しています。おまわりさんから職務質問を受けそうなアラブ風の覆面がトレードマーク。10位の「Dans mes cordes(Album Studio)」は、「五月革命のバリケード伝説」が語られ、2020年12月8日号でくわしくご紹介したRenaud(ルノー)ことルノー・セシャン(Renaud Séchan)71歳のセルフカヴァー集。アルバムとしては2022年5月の「Métèque」以来で12月1日発売です。
MIKA(ミーカ)
11月30日発売の「Que ta tête fleurisse toujours」が今週、SNEPアルバムチャートで5位に初登場したMIKA(ミーカ)は、レバノン生まれロンドン育ち。UKを拠点に活躍する40歳のシンガーソングライターです。
1983年8月18日、中東レバノンの首都ベイルート生まれ。レバノンは、英仏が旧オスマン帝国の領土を分けあった有名な「サイクス・ピコ秘密協定」によって第一次世界大戦後にフランスの委任統治領になっていたので、現在もフランス語がけっこう通じます。本名はMichael Holbrook Penniman Jr.(マイケル・ホルブルック・ペンニマン・ジュニア)といい、父親はアメリカ人。母親はレバノン人ですが、1歳の時にレバノン内戦が激化してベイルートに危機が迫ったので、両親と出国してパリ経由でロンドンに落ち着いたレバノン難民です。
ちなみに英国もフランスも難民出身のミュージシャンが多い国です。たとえばシャルル・アズナヴールの父親はオスマン帝国の大虐殺、ロシア革命後の内戦から逃れたアルメニア難民でした。ミシェル・ポルナレフの父親はロシア帝国のユダヤ人迫害「ポグロム」、スターリン時代の大飢饉「ホロドモール」から逃れたユダヤ系ウクライナ人で、ナチス・ドイツ占領下ではゲシュタポに捕まらないように名前を変えて北フランスの田舎に隠れ住んでいました。パトリック・ブリュエルはアルジェリア戦争から逃げてきた少数民族のベルベル人です。アフリカの独裁政権の圧政が生んだ難民も、インドシナ難民も、コソボ難民も、ハイチ難民もいます。民族の悲劇果てしなく。絶え間ない戦火、さまよう人々……。
「映像の世紀」はこれぐらいにしまして、ミーカは人呼んで「ミラクル・ポップ・プリンス」。2007年、24歳の時に「Life in Cartoon Motion」でアルバムデビューし、これまでにアルバムだけで全世界で1000万枚以上を売り上げています。ポップスのシンガーソングライター以外に音楽プロデューサー、俳優、パフォーマー、ファッションデザイナー、グラフィックデザイナー、イラストレーター、コラムニストとしても仕事をこなし、まさにミラクルな多芸多才ぶり。人気は英語圏にとどまらず、フランスでは2016年5月にBercyアリーナでコンサートを開いた時のライブ盤が出ていて、TF1のオーディション番組「The Voice」フランス版の審査員兼コーチを務め、30代の若さでフランス政府から「芸術文化勲章・シュヴァリエ」を受章しています。日本では2018年に椎名林檎さんのトリビュート・アルバムに参加し、直近では2023年5月に来日公演を行っています。
ミーカはUKが本拠なので英語の曲が多いのですが、4年ぶり6枚目のニューアルバム「Que ta tête fleurisse toujours」はなんと全てがフランス語の曲。ですからフランスでの初登場5位は狙い通りでしょう。今年、亡くなったジェーン・バーキンに捧げるナンバーも収録されています。日本盤も出ていて、邦題は「あなたの頭にいつも花が咲きますように」……「脳内お花畑」なんて言わないように。
その収録曲から9月に先行リリースされた「C'est la Vie」をお聴きください。ジャン=リュック・ゴダール監督の映画『気狂いピエロ(Pierrot Le Fou)』でジャン=ポール・ベルモンドがアンナ・カリーナの前でつぶやいたセリフをはじめ、たぶん世界的な知名度でいえば10本の指に入るようなフランス語のフレーズなので、アメリカのロビー・ネヴィル(Robbie Nevil)の1986年の大ヒット曲など、世界じゅうに同名異曲が数えきれないぐらいあります。
MIKA(ミーカ) - C'est la Vie
では、また来週
À la semaine prochaine!