仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2023年11月28日号

 

2023年11月24日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Petit génie - Jungeli, Imen ES, Alonzo

 2 Si No Estás - Iñigo Quintero

 3 Flashback - Favé

 4 Laisse moi - Keblack

 5 Casanova - Soolking

 6 Sans Cœur ft.Niska - Shay

 7 Greedy(Remixes) - Tate McRae

 8 Saiyan - Heuss L'Enfoiré & Gazo

 9 Bolide allemand - SDM

 10 Strangers - Kenya Grace

 

【アルバムチャート】

 1 Made in Rock'N Roll - Johnny Hallyday

 2 à2 à3 - Vianney

 3 Ambition - Guy2Bezbar

 4 Métamorphose - Bernard Lavilliers

 5 Crash cœur - Eddy de Pretto

 6 2 Bis - Florent Pagny

 7 Hackney Diamonds - The Rolling Stones

 8 Rock-STAR - Stray Kids

 9 Orange Blood - Enhypen

 10 1989 (Taylor's Version) - Taylor Swift

 

 今週もシングルチャート1位は「Petit génie」。2位はスペインのIñigo Quintero(イニーゴ・キンテロ)の「Si No Estás」で変わらず。以下9位まで前週と同じ顔ぶれで、順位が少し入れ替わっただけでした。10位に「Strangers」が初登場したKenya Grace(ケニア・グレース)はケニアではなく南アフリカで生まれ港町サウザンプトンで育った女性シンガーソングライター。9月にリリースされた「Strangers」はUKチャートで1位になっています。

  アルバムチャートは大変動。11月17日に新作リリースが集中して前週から5作が入れ替わりました。いきなり1位に故ジョニー・アリディ(Johnney Hallyday)。アルバムが出るたびにファンが買って何度もチャートインさせてくれるんですから、つくづく幸せな男だと思います。3位にSDM、Josman、Koba Lad、Letoらが参加したセカンドアルバム「Ambition」が入ったGuy2Bezbarは本名Guy-Fernand Kapataといいパリ18区出身、25歳のコンゴ系ラッパーです。

 

Bernard Lavilliers

  通算23枚目のアルバム「Métamorphose」(メタモルフォーゼ/ドイツ語起源で生物学の「変態」や「変身」という意味)がアルバム4位に登場したベルナール・ラヴィリエ(Bernard Lavilliers)は、南仏サン=テティエンヌ(Saint-Étienne)生まれの77歳。1967年にデビューし今年56年目の超ベテランのシンガーソングライター。2021年12月28日号でくわしくご紹介しています。フローラン・パニー(Florent Pagny)の「2 Bis」が6位でトップ10復帰。アルゼンチン大統領選挙で過激な政策を掲げるミレイ新政権が誕生しましたが、パタゴニアの荒野に建てた家はどうする? 今週もK-POPの風やまず、Stray Kidsはアルバム7位、男子7人組Enpypen(エンハイプン)の5枚目のミニアルバム「Orange Blood」は8位に入っています。

 

Eddy de Pretto(エディ・ド・プレット)


Eddy de Pretto

  フランスのポピュラー音楽について、「シャンソン」には中世のトルバドゥール(Troubadour)や吟遊詩人(Ménestrel)以来の長い歴史があり、その基盤の上に第二次世界大戦後に流入した英米のポップス、ロックの影響を受けて「フレンチポップス」が台頭したが、それとは別の系統でアメリカのストリート・カルチャー起源のヒップホップがフランスにも入ってきて、今やそれが大きな勢力を形成している、と理解している人は少なくないと思います。フランス社会の分断や対立を憂いながら、「シャンソン、フレンチポップスは白人の音楽、ヒップホップは移民の音楽」と、とりあえず区別している人もいるでしょう。

  アーティストもオーディエンスも別々に存在し、交流はあまりない、のも現実としてあります。音楽という「市場」にカテゴリーの「種別」があったほうが、売り込むターゲットや手法がより明確になるのでビジネスで効率がいい。そうやって文化にビジネスの都合によって枠がはめられるのも、その是非や功罪はあえて問いませんが、一つの現実です。

  ですが、今回ご紹介するEddy de Pretto(エディ・ド・プレット)は、「シャンソン/ポップス」と「ヒップホップ」というカテゴリーの壁を超えて活躍するミュージシャンで、たとえばシングルではシャンソンのバルバラ(Barbara)もカヴァーすれば、ラッパーのJuLもカヴァーし、自分自身を「ノンジャンル」のアーティストと定義しています。今週、11月17日リリースの3枚目のアルバム「Crash cœur」が5位にランクインしました。

  プロフィールを簡単にご紹介すると、1993年5月生まれで現在30歳。パリの南東の郊外、ヴァル・ド・マルヌ(Val-de-Marne/94)県クレテイユ(Créteil)の町で、サッカー狂のトラックドライバーの父親と病院勤めの臨床検査技師の母親の間に生まれました。12歳から声楽と演劇のレッスンを始め、パリにある高等演劇芸術研究所(ECM-ISAS/ジャン=ポール・ベルモンドやジャンヌ・モローなど多くの名優を輩出したコンセルヴァトワールのフランス国立高等演劇学校CNSADとは別の学校です)で学びます。ミュージシャンになるのも、俳優になるのも、ともに少年時代からの夢でした。才能を認められたのは俳優のほうが先で、17歳で広告のモデルとしてジュリアス・シーザー役に起用され、19歳で初めて短編映画に出演した後、いくつかの映画にチョイ役で出ましたが、それと並行して作詞・作曲を進めていました。

  地元クレテイユの青少年センターのイベントで初めて人前で歌った曲は、映画『スペース・ジャム』の主題歌で1996年に全米でヒットしたR・ケリーの「I Believe I Can Fly」で、移民が多い地域性もありヒップホップを歌うことが多かったそうです。その後は次第に音楽の仕事が増えていき、各地のイベントに出演してミュージシャンとしての評価も高まり、2017年10月、24歳で最初のEP「Kid」をリリースしました。それにより翌年のヴィクトワール音楽賞の最優秀新人賞にノミネートされています。

  2018年にはテレビ番組でポップスシンガーのジュリアン・ドレ(Julien Doré)と共演してセルジュ・ゲンズブール作品を歌った後、ファーストアルバムの「Cure」をリリースするやアルバムチャート1位にのぼりつめます。その収録曲「Normal」は、彼自身が男性同性愛者(クィア)だとカミングアウトしたことに対し「私を攻撃してきた人々に対する怒りを体現した」と言っています。シングルは心の痛みを歌った「Random」から「Fête de Trop」「Ego」さらに「Bateaux-Mouches」「Désolé Caroline」「Parfaitement」と順調にセールスを伸ばし、2021年に出したセカンドアルバム「À tous les bâtards」は最高4位をマーク。2年のインターバルがあって今月、ニューアルバム「Crash cœur」がいきなり5位になりました。

  その収録曲から9月にリリースされた「LOVE'n'TENDRESSE」をお聴きください。「un peu de love et de tendresse(ほんの少しの愛と優しさ)」というフレーズをひたすら繰り返すセンチメンタルな後悔の曲です。

 

Eddy de Pretto(エディ・ド・プレット) - LOVE'n'TENDRESSE (Clip Officiel)

 

では、また来週

À la semaine prochaine!