仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2023年10月10日号

 

2023年10月6日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Petit génie - Jungeli, Imen ES, Alonzo

 2 Laisse moi - Keblack

 3 Casanova - Soolking

 4 Saiyan - Heuss L'Enfoiré & Gazo

 5 Si No Estás - Iñigo Quintero

 6 Meridian - Dave/Tiakola

 7 Paint the Town Red - Doja Cat

 8 Magot - Werenoi

 9 Bolide Allemand - SDM

 10 Strangers - Kenya Grace

 

【アルバムチャート】

 1 Mandat de dépôt - Niaks

 2 2 Bis - Florent Pagny

 3 Telegram 2 - Werenoi

 4 ADC - Freeze Corleone

 5 Autumn Variations - Ed Sheeran

 6 NI - Ninho

 7 Carré - Werenoi

 8 A.M.O.U.R - Calogero

 9 Mélo - Tiakola

 10 KMT - Gazo

 

 今週もシングルチャート1位は「Petit génie」でした。SDMの「Bolide Allemand」が9位でトップ10に復帰しています。

 

Iñigo Quintero 

 シングル5位に「Si No Estás」が初登場しているIñigo Quintero(イニーゴ・キンテロ)は、巡礼の聖地サンティアゴ・デ・コンポステラがあるスペイン・ガリシア地方の港町ラコルーニャ出身、22歳の男性シンガーソングライターです。タイトルはスペイン語で「君がここにいなければ」という意味で、2022年9月のリリースから1年後、SNSで突然、火がついて世界的にヒット中で、Spotifyでの再生数は2800万回以上です。「クリスチャン・ロック」のカテゴリーに属し、歌詞の中身はカトリックの信仰色を帯びています。10位のKenya Grace(ケニア・グレース)は南アフリカ生まれで港町サウザンプトンを拠点に活躍しているUKの女性ソウルシンガー。「Strangers」はUKシングルチャートで最高2位です。

  アルバムチャートでは前週1位のウェルノワ(Werenoi)の「Telegram 2」が3位に後退し、フローラン・パニー(Florent Pagny)の「2 Bis」が2位に再浮上しました。超ベテラン、根強い人気。5位にエド・シーラン(Ed Sheeran)の9月29日発売のニューアルバム「Autumn Variations」がランクインしました。UKアルバムチャートでは1位になっています。『千と千尋の神隠し』『もののけ姫』『となりのトトロ』などスタジオジブリ、宮崎駿氏のアニメ作品への提供曲を集めた久石譲氏の6月発売のアルバムが今週、12位まで上がってきました。

 

Niaks(ニアク)


Niaks

  9月からフレンチポップスのベテラン勢のご紹介が続きましたが、今回は移民の二世、三世の若者に人気があるヒップホップです。今週のアルバムチャートで初登場1位になったのは、Niaks(ニアク)が9月29日にリリースした新作「Mandat de dépôt」でした。

  タイトルの意味ですが、刑事事件で逮捕された被疑者を拘束するために裁判所が出す「勾留状(こうりゅうじょう)」のことです。暴力事件やいけないクスリで警察に逮捕されて裁判にかけられ刑務所暮らしになる仲間が出るのが日常茶飯事という環境を基盤に活動している、郊外(Banlieue)のラッパーらしいタイトルだと思いますか?

  とは言っても、彼のスタイルは野卑で「ヒャッハー」と暴力を賛美するような、いわゆる「ギャングスター・ラップ」ではありません。犯罪者になってしまった経験、服役して辛酸をなめた経験などをベースに、フランス社会に対する疑問や抗議にイスラム教の信仰も加味したような、やや内省的なリリック(Paroles)が持ち味です。

  Niaksは現在28歳。本名はNiaks L'Bonvieuといい、パリの北西の郊外、セーヌ下流域のイヴリーヌ(Yvelines/78)県マント=ラ=ジョリー(Mantes-la-Jolie)の、移民の多いル=ヴァル=フーレ (Le Val Fourré)地区で育ちました。自身もモロッコ系。ティーンエージャーの頃から犯罪に手を染め、セーヌ=サン=ドニ(Seine-Saint-Denis/93)県ヴィルパント(Villepinte)にあるCJD (青少年受刑者センター)などで合計5年間、服役します。弁護士を依頼するお金がなかったため、通常は20年ほどで出所できるはずが40年も服役している男性とも獄中で出会ったそうです。職員(看守)や他の収容者の暴力に反抗した懲罰として1年間、独房に入れられたこともあり、その経験から「Il faut avoir connu la solitude pour se connaitre(拙訳:自分自身をよく知るには、孤独を知るべきだ)」と言っています。

  独房内では詩をよく書き、服役中に知りあったラッパー仲間の勧めもあり、出所後にヒップホップのミュージシャンの道に進みます。2020年、フリースタイルの「Drilluminati」で注目され、翌年に11曲入りのEP「Commission rogatoire」をリリースし、これが100万回再生のヒットに。そして今作の「Mandat de dépôt」は彼にとってファーストアルバムになります。その収録曲から、7月の「Manolo」に続いて8月にシングル発売された「Mahmouma」をお聴きください。タイトルはモロッコの別称で、モロッコに行ってPVを撮っています。

 

Niaks(ニアク) - Mahmouma

 

 

では、また来週

À la semaine prochaine!