2023年7月28日付 SNEPシングル&アルバムチャート
※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)
【シングルチャート】
1 Casanova - Soolking
2 Saiyan - Heuss L'Enfoiré & Gazo
3 Bolide allemand - SDM
4 Shavkat - Freeze Corleone
5 Meuda - Tiakola
6 Eurostar - Ninho ft. Central Cee
7 GTB - Jey Brownie, FLEM KGB
8 Rush - Ayra Starr
9 Flowers - Miley Cyrus
10 C'est carré le S - Naps
【アルバムチャート】
1 NI - Ninho
2 C'est quand qu'il s'éteint? - JuL
3 Barbie (Bande orginale du film) - Divers
4 The Ballad of Darren - Blur
5 NewJeans 2nd EP 'Get Up' - NewJeans
6 Carré - Werenoi
7 Mélo - Tiakola
8 Liens du 100 - SDM
9 KMT - Gazo
10 5-Star - Stray Kids
今週もSoolkingの「Casanova」がシングルチャート1位。Freeze Corleoneの「Shavkat」が4位に初登場しました。セーヌ=サン=ドニ県(93)生まれでフランスとカナダのモントリオールとセネガルのダカールに活動拠点を置き、三大陸を股にかける30歳のラッパー。2020年9月に「Hors ligne」がシングルチャート8位に、2022年3月にアルジェ生まれのリヨンのラッパーAshe 22とコラボした「Riyad sadio」がアルバムチャート9位になっています。
今週もアルバムチャート首位はNinhoの「NI」でした。3~5位はトップ10初登場。3位の「Barbie(Bande orginale du film)」は女の子のおもちゃバービー人形の実写映画『バービー(Barbie)』のサントラ盤(英語版は「Barbie The Album」)で7月21日発売。「Divers」はさまざまな人たちという意味で、英語では「Various Artists」や「Multi Artists」にあたります。Ava Max、Dua Lipa、Nicki Minaj、Ice Spiceなどが参加しています。
4位の「The Ballad of Darren」はUKブリットポップの雄、イーストロンドン代表Blur(ブラー)の8年ぶりのスタジオアルバムで7月21日リリース。90年代にオアシス(Oasis)と、チェルシーとマンチェスター・シティのサポーターまで巻き込み過激な対立抗争を繰りひろげましたが、フランスをはじめ大陸ヨーロッパでのセールスではブラーがおおむね優勢でした。フロントマンのデーモン・アルバーン(Damon Albarn)が結成したバーチャルバンドGorillaz(ゴリラズ)のアルバム「Crackers Island」が3月3日付のSNEPチャートで3位に入り、3月7日号でご紹介しています。5位のNewJeansは2022年デビューの韓国の5人組ガールポップユニット、10位のStray Kidsは韓国の男子8人組グループ。韓流もおそるべし。
ジェーン・バーキンは今週アルバムチャート70位でしたが、7月26日に亡くなったアイルランドのシネイド・オコナー(Sinéad O'Connor)は、シングルもアルバムも200位以内に顔をみせませんでした。フランスで最高5位のシングル「Nothing Compares 2 U(愛の哀しみ)」を収録した1990年のアルバム「I Do Not Want What I Haven't(蒼い囁き)」は、フランスでも最高4位でプラチナディスクになっています。ローマ・カトリック教会への批判を嫌気されて聴かれなかったわけではありません。
FLEM KGB
Jey Brownieとコラボした曲「GTB」がシングルチャートで前々週9位、前週7位、今週も7位に入っているFLEM KGBは、Flemとだけ呼ばれることも多いようです。本職はフランスのヒップホップシーンで活躍する音楽プロデューサーです。「KGB」はもちろん旧ソ連の国家保安組織とは一切関係なく、彼がパリ市内に所有している音楽スタジオの名前で、そこで今週シングル2位のGazo、同4位のFreeze Corleone、同5位のTiakola、同6位のCentral Cee、Maes、Kaarisなど、第一線のアーティストたちとの楽曲制作で才能を発揮しています。
本名はJoseph Doumbeといい、オー=ド=セーヌ県(Hauts-de-Seine/92)のブローニュ=ビヤンクール(Boulogne-Billancourt)生まれ。パリ16区からサン=クルー門(Porte de Saint Cloud)を抜けた向こうにひろがる衛星都市で、ここの出身のミュージシャンは、モデルからポップシンガーに転向したレザンフォワレ(Les Enfoirés)常連のザジ(Zazie)、「ELLE誌が選ぶ最もセクシーな男」ラファエル(Raphael)から、オルリー空港でカーリス(Kaaris)と大乱闘を演じたコワモテ武闘派ラッパーのブーバ(Booba)まで、多士済々です。
ミュージシャンとしての作品は単独ではなく誰かとのコラボレーションがほとんど。最初にリリースした曲は2016年2月にOchoとコラボした「Atmosphère pesante」でした。2017年にEden Dillingerとコラボした「Jésus sur la croix (Remix)」がヒットしています。2018年5月にはファーストミニアルバム「Where's My Money」を出しました。2020年に出したアフリカ志向のアルバム「Nomades」は、「Mali」という曲が、かつてのイスラム国、アルカイダ、フランス外国人部隊にいま話題の「ワグネル」まで入り乱れたマリの内戦にからんで話題を提供。最近は7月13日に誰ともコラボしていない新曲「Jimbo」をリリースしています。
さて、「GTB」は2月17日にJey Brownie & FlEM KGB名義でリリースしたアルバム「Faits Divers」の収録曲です。GTBとはGhetto boy(ゲットーの少年)の略で「J'sais que j'suis un ghetto boy. Le sourire de ma mère, c'est ma best of joy. J'ai pas le choice(拙訳:俺は自分がゲットーの少年だと知っている。母親の笑顔。それが最高の喜びさ。俺には選択肢がないんだ)」というリリックを繰り返した後、「見えない壁」があるなど、自ら「ゲットー」と呼ぶ郊外(Banlieue)のアフリカ系社会のハードボイルドな日常の話が続きます。FLEM KGBはカメルーン系で、Jey Brownieはコンゴ民主共和国の首都キンシャサの生まれです。
今さらの話ですが、フレンチラップの歌詞は当然フランス語ながら「Je sais→J'sais」「Je suis→J'suis」「Je n'ai pas→J'ai pas」というような口語表現起源の独特の省略形をよく使っていて、「le meilleur→best」「joie→joy」「garçon→boy」というように英語の単語も平気で多用しています。頭韻、脚韻などライム(韻)を重視してあえてそうしている場合もあります。「政府公認フランス語警察」のアカデミー・フランセーズ(L'Académie française)のお偉いさんだったら、「タイホする」「タイホする」と発狂しそう(笑)。
FLEM KGB, Jey Brownie - GTB (Clip Officiel)
では、また来週
À la semaine prochaine!