仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2023年7月4日号

 

2023年6月30日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Bolide allemand - SDM

 2 Flowers - Miley Cyrus

 3 Meuda - Tiakola

 4 C'est carré le S - Naps

 5 Rush - Ayra Starr

 6 Calm Down - Rema, Selena Gomez

 7 Saiyan - Heuss L'Enfoiré & Gazo

 8 This Year (Blessings) - Victor Thompson

 9 TP - Sadek

 10 La rue - No limit (FRA)

 

【アルバムチャート】

 1 C'est quand qu'il s'éteint? - JuL

 2 Saison 00 - Luidji

 3 Daddy 9 - Joé Dwèt Filé

 4 Carré - Werenoi

 5 1998 - Yanns

 6 Mélo - Tiakola

 7 Shaka Ponk - Shaka Ponk

 8 5-Star - Stray Kids

 9 Liens du 100 - SDM

 10 Alpha - Djadja & Dinaz

 

 シングルチャート1位は今週もSDMの「Bolide allemand」でした。マイリー・サイラスが2位で粘ります。レマとセレナ・ゴメスの「Calm Down」も6位で粘ります。7位「Saiyan」のHeuss L'Enfoiré(ヘス・ランフォワレ)はオー=ド=セーヌ県(92)ジュヌヴィリエ (Gennevilliers)出身、アルジェリア系の30歳のラッパー。チャートに久々の登場です。

 (注:マグレブ系の人名は「Hussain」(フセイン)「Hassan」(ハッサン)のように「H」を発音する原則で日本語表記します。多文化共生をリスペクトするこのブログではアカデミー・フランセーズの権威よりもマグレブの言語文化のほうを尊重しますのでご了承ください)

  8位のVictor Thompsonはナイジェリアの現首都アブジャ(Abuja)を拠点に活動するゴスペルシンガー。「Blessings」は「神の恩寵」という意味です。揺れ動く世界に恵みあれ。

  ともに6月23日リリースの「Saison 00」がアルバムチャート2位のLuidji、「Daddy 9」が3位のJoé Dwèt Filéは、2人ともハイチ系のアーティストです。いよいよ真夏本番にグアドループやマルティニークの「ズーク」、トリニダード・トバゴの「カリプソ」、ハイチの「コンパ」など、アフロ=カリビアンの風を吹かせています。

 

Luidji 

 Luidjiはヴァル=ドワーズ(Val-d'Oise)県(95)ヴィリエ=ル=ベル(Villiers-le-Bel)出身の32歳。Joé Dwèt Filéはハイチ生まれの28歳で2021年にセカンドアルバム「Calypso」がSNEPチャート4位になっています。大西洋の島国カーボベルデ(Cap-Vert)生まれの女性シンガーRonisiaをフィーチャーした2021年のシングル「Jolie madame」は10位まで上がりました。3枚目の新作アルバム「Daddy 9」ではTiakola、Dadjuらとコラボしています。

 

Yanns(ヤンズ)


Yanns

  今週のアルバムチャート5位に6月23日発売の「1998」が入ったシンガーソングライター、Yanns(ヤンズ)は、アルバムタイトル通りの1998年生まれの25歳。誕生地はロレーヌ地方、モーゼル(Moselle)県(57)の主要都市メス(Metz/ドイツ語ではメッツ)です。本名はYannick Schweitzer(ヤニック・シュバイツァー)。日本でもけっこう知られていますがドイツ領の時代が長かったアルザス・ロレーヌ地方の大部分はドイツ語の方言が日常的に使われている地域です。とはいえ父親はポルトガル出身で、母親はスペイン語を話すロマ民族(Gitana)でした。そんな「ラテンの血」が自分の音楽にもたらした影響は大きかったと、自ら語っています。ステージネームはYannickを略したYanns。ファーストネーム(prénom)だとテニスの偉大な選手から歌手へと華麗なる転身を遂げたヤニック・ノア(その出身地セダンはメスに近い)と、ファミリーネーム(nom de famille)だとマルセイユの人気ラッパーSCHと、かぶりますからね。

  12歳で同じロレーヌ地方のナンシー(Nancy)にあるサッカークラブASNLの育成組織に入りますが、ひざの十字靭帯損傷という大ケガを負いサッカー選手になる夢を絶たれます。だから音楽で身を立てる夢に賭けたのだ、というわけではなく、ピッチ外のデュエル(1対1)のフィジカルコンタクトで確実に枠内シュートを放ってガールフレンドを妊娠させてしまい17歳でパパに。生まれた女の子も加えた3人で生活していく糧を得るためにナンシーの美容師訓練校に入ります。

  私生活がそんな状況のもと、音楽的には大物ラッパーJuL(ジュール)のラップに心酔していて、いつしか自分で曲を書いて歌いYouTubeにアップロードさせるようになります。そして2020年夏、「YouTubeよりもTikTokのほうがウケるのが早いみたいだ」と気づくとあっさり乗り換え。「Bébé」のタイトルで複数の自作曲を公開するやたちまちTikTok登録者数が85万人を超えます。これが、職業訓練を受けながら女房子供に手を焼いていた22歳のYannsを一気にメジャーシーンへ押し上げました。最新アルバムでは「TikTok」という曲でこのSNSに感謝の意をあらわしているほどです。

  2020年11月に出したファーストシングル「Mon chouchou(僕のお気に入り)」はYouTube再生回数1800万回を記録し、2021年2月に出したファーストアルバム「Bambino」の成功を受けてナンシーに自身のレーベル「Yanns Records」「Prodige music」を設立し、社長に。自らの音楽スタイルについてはラテンをベースにした「アーバンポップ」と主張。「Bambino」には「Johnny Hallyday」という曲を収録し、偉大なロックスターへのリスペクトもみせました。

  2021年9月のセカンドアルバム「Broken Heart」に続いて2021年12月にリリースしたシングル「Clic clic pan pan」が、Yannsの人気を不動のものにします。この曲はYouTubeで1億1000万回以上の再生回数を記録。ダブルダイヤモンドディスクに輝き2022年「Révélation streaming」部門で「W9 d'or de la musique」を受賞しています。2022年2月にはサードアルバム「Wonderland」をリリースし、「1998」は4枚目のスタジオアルバムになります。

  その収録曲から「Ça c'est fait」をお聴きください。タイトルは「やったね」「これでおしまいさ」というような意味。ピットブルの大将を思わせるな~んにも考えてないようなパリピなPVはブラジルのリオ・デ・ジャネイロで撮影されています。アーバンかどうかはともかく、これが本来の意味のポップミュージック、ですね。

 

Yanns(ヤンズ) - Ça c'est fait (Clip officiel)

 

では、また来週

 

À la semaine prochaine!