仏蘭西歌謡曲
Chanson Populaire en France

 
2021年2月23日号

 

2021年2月19日付 SNEPシングル&アルバムチャート

※SNEP:Syndicat national de l'édition phonographique(フランス全国音楽出版組合)

 

【シングルチャート】

 1 Fever - Dua Lipa ft.Angèle

 2 Marché noir - SCH

 3 Cœur noir - Eva

 4 Girl Like Me - Black Eyed Peas

 5 Bande Organisée - JuL ft.SCH, Naps, Kofs, Elams, Solda, Houari & Soso Manes

 6 RATPI world - Booba

 7 Cosmos - Rim'K

 8 Dákiti - Bad Bunny & Jhay Cortez

 9 1,2,3 - Amel Bent

 10 Médusa - Landy

 

【アルバムチャート】

 1 Terrien - Julien Clerc

 2 Mesdames - Grand corps malade

 3 Grand prix - Benjamin Bioley

 4 N'attendons pas - Vianney

 5 The Highlights - The Weeknd

 6 Mi vida - Kendji Girac

 7 Aimée - Julien Doré

 8 Histoires de - Mylène Farmer

 9 Future Nostalgia - Dua Lipa

 10 Versus - Vitaa & Slimane

 

 シングルチャート1位はDua Lipaですが、今週アルバムチャート9位の「Future Nostalgia」に「Fever」は入っていません。シングル9位にはAmel BentのHatikとのデュエット曲が上がってきました。哲学しよう。14日、フランスでは男性から女性に贈り物をするバレンタイン・デーだったからなのか、アルバムチャートではJulien Clerc、Benjamin Bioley、Julien Doréなどラブソングを歌うベテラン勢が上位進出。でも8位の「妖しき暗黒の歌姫」Mylène FarmerのCD-BOXをプレゼントされて、女性は喜びますか? 

 

 

Julien Clerc (ジュリアン・クレール)


 今週、アルバムチャート初登場1位のアーチスト名を見て、50代以上で「なつかしい」と思った人がいたかもしれません。Julien Clerc(ジュリアン・クレール)。70年代には日本でも「フランスの貴公子」という触れ込みでシングル盤がよく売れ、甘いマスクで女性に人気がありました。愛称は「ジュジュ」「黒髪のアポロン」。「ねえねえ、何くれる? ジュリアン・クレールだよ」というレコード会社のラジオCMもありました。それから40年以上たって、フランスの最新チャートでこの人を紹介することになるとは思いませんでした。

  改めてご紹介しますと、1947年10月、パリ19区生まれの73歳。本名はPaul-Alain Leclerc。自由フランス軍の英雄で戦車にその名を残すルクレール将軍や、モナコ出身のF1フェラーリ所属のルクレールとは親戚ではありません。祖父は現在のフランス郵政公社の幹部、父親はパリに本部があるユネスコ(UNESCO/国際連合教育科学文化機関)の上級幹部、母方の先祖はカリブ海のグアドループ島の植民地官僚という、本物の名家の貴公子です。本人もエリート養成校のグランゼコール(Grandes Écoles)を受験しますが不合格になり、ソルボンヌに進学して英語を学びます。ところが在学中に五月革命が起きて大学は閉鎖され、好きだったポップス、ロックの道に進みます。

  1968年、ジュリアン・クレール名義(宝塚歌劇『アルジェの男』とは無関係です)で「Julien Clerc」を出してアルバムデビュー。当初はアダモやジルベール・ベコーのコンサートの前座を務めていたそうですが、1969年、フィフス・ディメンションの「アクエリアス(Aquarious)」で知られる伝説のロックミュージカル「ヘアー(Hair)」フランス公演の主役に抜擢され、一躍スターダムに。クロード・フランソワにふられたばかりのフランス・ギャルと仲良くなり、1974年まで一緒に暮らしていました。その間に「La Californie(燃えるカリフォルニア)」「Si on chantait(もし僕たちが歌うなら/都会のマリー)」「Ce n'est rien(時は過ぎゆく)」「Niagara(ナイアガラ)」など次々とヒットを飛ばします。1972年には日本航空の「ジャルパック」とタイアップして安井かずみさん訳詞の「都会のマリー」「冬の旅芸人(Le Patineur)」を日本語で歌ったレコードを出し、1974年、1975年には来日公演を果たしています。

 

   

 

 残念ながら70年代後半以降、日本ではジュリアン・クレールの名は忘れ去られてしまいますが、フランスでは現在に至るまでフレンチポップスの大御所の一人で、誰もが知る国民的シンガーです。「五月革命世代」らしくチャリティ活動にも積極的で「心のレストラン」支援の「レザンフォワレ(Les Enfoirés)」やアフリカ救済の「国境なき歌手団(Les chanteurs sans frontieres)」に参加し、コロナ禍の2020年には医療者を支援するチャリティ番組にも出演しました。2月12日発売のアルバム「Terrien」(「地球人」という意味)はベスト盤ではなく彼の26枚目のオリジル・スタジオアルバムです。ほぼ同年代のミシェル・デルペッシュは亡くなりミシェル・サルドゥもミシェル・フュガンも引退しましたが、カロジェロやマルク・ラヴォワーヌなど年下のミュージシャンの協力も得ながら、73歳にして創作意欲なおも旺盛です。

 

Julien Clerc - La Californie(燃えるカリフォルニア) INAのアーカイブ映像から

 

では、また来週

 

À la semaine prochaine!