映画三昧 #2071 ⭐️⭐️☆ しあわせの絵の具 愛を描く人 モード・ルイス(16) | juntana325 趣味三昧

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カナダの女性画家モード・ルイスと彼女の夫の半生を、「ブルージャスミン」のサリー・ホーキンスと「6才のボクが、大人になるまで。」のイーサン・ホークの共演で描いた人間ドラマ。カナダ東部の小さな町で叔母と暮らすモードは、買い物中に見かけた家政婦募集の広告を貼り出したエベレットに興味を抱き、彼が暮らす町外れの小屋に押しかける。子どもの頃から重度のリウマチを患っているモード。孤児院育ちで学もないエベレット。そんな2人の同居生活はトラブルの連続だったが、はみ出し者の2人は互いを認め合い、結婚する。そしてある時、魚の行商を営むエベレットの顧客であるサンドラが2人の家を訪れる。モードが部屋の壁に描いたニワトリの絵を見て、モードの絵の才能を見抜いたサンドラは、絵の制作を依頼。やがてモードの絵は評判を呼び、アメリカのニクソン大統領から依頼が来るまでになるが……。監督はドラマ「荊の城」を手がけたアシュリング・ウォルシュ。




予想外に素晴らしい作品だった。リウマチで苦しむモード・ルイスだが、その身体的なハンデを絵筆で跳ね返す。彼女は1日1枚絵を描く。そこまで突き動かす原動力は何だろう。彼女の絵への執念は、生への執着に他ならない。晩年の絵筆を取る姿は、痛々しいのに、なぜか幸せに満ちている。サリー・ホーキンスの演技の賜物だろうか、それとも自分がそうあって欲しいと思うからだろうか。




彼女は、絵を描く事に頓着しない。技術的にとか、何派とか、虚栄心なんていうのは皆無なのだ。幾ばくかで売れれば、それで万事ハッピーだ。まあ、今流なら、上手下手な絵とでも言おうか、芸術的かどうかは自分では判断しかねる微妙な作品だ。しかし、何度か見ていると、無類のフォーク・アートに、心の温もりを感じる。夫のエベレットも、落書きのように思っていたが、長く接するうちに、その絵の魅力に取り憑かれたのだろう。スクリーンに映される美しすぎる絶景は、まさに、その絵の景色であり、彼女の心の故郷だ。




モードの人間的な魅力が、見所なのだから、それを引き出すのがイーサン・ホークス扮する夫エベレット。このイーサン・ホークの演技が泣かせる。最近のイーサン・ホークは、どの作品も良い。何で無冠なのか不思議な気がする。この夫婦は、一言で言えば破れ鍋に綴じ蓋、愛情たっぷりというより、ぎこちないがお互いを大切に思っているという夫婦。彼らが曰く、二人は1組の古い靴下。片方はのびのびでヨレヨレ、片方は穴がいている。言い得て妙だ。その近すぎず、離れすぎない関係を、絶妙にコントロールするのがイーサン・ホーク。あれくれなのに、心優しい彼の演技は、染み渡ってくる。




ラスト、妻を失った彼は、いつもと変わらないように見える。元々、口数も少ないし、黙々と仕事をする男だ。考えてみれば、妻のモードは、思う存分、自分の好きなことをして、自分の命を使い果たした。それに比べて、エベレットは、いつの間にか、彼女に献身的につかえる夫を演じていた。その仕える人がいなくなった男の寂寥感は、ひとしおだろう。亡くなる直前に、死期を悟ったモードが、夫に、犬を飼うことを勧める。彼は、頑なに拒否する。妻の死期を受け入れたくないのだろう。こんな夫婦になりたいと思った。