彼の名前は"櫻井翔"くん。
『…………君は?』
と聞かれて
名前を名乗るのに躊躇した。
俺の名前を知ったからって
友達になるわけじゃないし……
『俺?
俺は…………名無しのゴンベイさん。
あんた……おっと、櫻井さんの好きな名前でいいよ。
俺に似てる人がいるんだしょ。
その名前でもいいし……』
と、答えると
『なんで?』
と、返ってきた。
『なんで?って
ただのセックス相手じゃん。
2、3日泊めてくれるだけの関係でしょ。
そんな名前で呼び合う程じゃないし………』
どうせ今だけの関係でしかないんだから
俺の名前なんて知らなくていいんだよ。
『…………わかった。
じゃあ。
"智"と呼んでいい?』
『さとし………………
うん。
いいよ。
今日から俺の名前は"さとし"だ。』
と言って笑ってみせた。
家につくとすぐ
『ねえ。シャワー借りていい?』
と、櫻井くんに聞いてみた。
家の中が散乱している状態で
散らばった服や本を持ちきれないほど
両手に抱え込んで
『あっ!
ああ………』
と、振り向いた。
なんか………おかしい……
真面目そうで
きっちりしてそうなのに
部屋がこんなに汚いなんて………
ちょっと笑えた。
温かいシャワーを浴びながら
強がってはみたものの
「俺、上手に出来るかな?」
って、心配になった。
俺は、今までずっと病院暮しで
そんな経験はない………はず…………
ちゃんと好きな人もいなかったんだろうな。
初めてが童貞喪失じゃなくて
処女喪失って……………
「まあ……いいか。
お金のためだ。」
と、割り切ってはみたけど
"いざ"ってなるとやっぱり怖いや。
でも、売った体だから
「念入りに洗っておくのがエチケットだよね。」
と、ちょっと時間をかけて洗った。
シャワー室から出ると
今まで着ていた服に手を入れて
「やっぱり………いいか。」
と、着るのをやめた。
そして、腰にバスタオルを巻いて
櫻井くんのもとに………
『あがったよ。』
って、俺が言った声が聞こえないのか
櫻井くんは返事もなく
突っ立ってなにかを見ていた。
『…………智…………
…………智………………』
と、切なそうに苦しそうに
押し殺した声が聞こえてきて
『………なあに?
俺のこと呼んだ?』
と、櫻井くんの隣に行って
手に持っているものを覗きこんだ。
それは額に入った写真。
『あっ。
ほんとだ。
俺にそっくりじゃん。』
まだ、幼さが残る櫻井くんたちの写真に
俺にそっくりな男の子が
櫻井くんの隣で笑っていた。
『彼が…………智くん?』
と、指差したら
「うん。」と、頷いた。
俺と間違えてもしかたがないわ。
これほど似てるなんて
他人じゃないみたい………
『……………突然、消えたの?』
と、俺が聞いてるのに
櫻井くんは黙って写真を見ていた。
『そっか。
櫻井くんは、その彼が好きだったんだね。』
俺が櫻井くんの顔を覗きこむと
彼の粒羅な瞳から
ポロポロと大粒の涙が溢れてくる。
『………泣くなよ。
もー………
俺が慰めてやるよ。
俺が、櫻井くんの"さとし"に
なってやるから……』
俺は思わず、彼を抱き締めて
背中を撫でていた。
櫻井くんにこんなに思われている
智くんが羨ましいなって思いながら
「俺が、智くんになってやるよ」って
そう思いながら抱き締めた。
『なっ
なんだよ。お前の格好。』
先程まで、泣いていたくせに
突然、櫻井くんが俺を見て
呆れた顔を見せた。
『だって……………
どうせすぐ脱ぐじゃん。』
と、俺はケタケタ笑った。