健太を置き去りにした。
健太がどんな表情をしていたのか
背を向けた俺にはわからない。
健太が追い縋って来るかと期待したけど
俺を引き留めることもなかった。
あの日から暫くたったけど
健太から連絡はないし顔も見せない。
一週間が過ぎて…………
一ヶ月が過ぎて…………
二ヶ月が過ぎて…………
携帯を覗いても履歴に健太らしい
着信はなく
「俺からは健太に連絡はしない」って言ったから、
彼のアドレスも電話番号も住所も知らない。
知っているのは
家庭教師の先生の家と、
健太のお母さんの携帯番号だけ………
このまま…………
もう、会えないのかもしれない。
俺は結局、
智も健太も失うんだ。
忙しさに紛れて
徐々に忘れ去っていけばいい。
そう思うようになっていた。
そんな4月のある日に
珍しい人から連絡が来た。
『翔ちゃん。
話があるからちょっと会えない?』
それは、二宮和也からだった。
『よう。
年末に会ったきりだな。
元気だったか?』
と、待ち合わせの居酒屋で
先に着いていたニノに声をかけた。
『翔ちゃん。
翔ちゃんこそ元気だった?』
『おう。
まあまあなっ。』
注文を取りに来た店員に
『とりあえずビールで。』
と告げると
『ニノと二人っきりでって始めてだな。』
『そうだね。
忙しい?』
『まあなっ。
研修中だから使いっぱしりばっかだよ。』
『大変だね。』
『まあな。
ニノは?
そう言えば、
出版社に勤めたんじゃなかったけ?』
『うん。』
『そっちこそ、俺なんかより忙しいだろ。』
『まあ、勤め始めたばかりだからね。
覚えるこかが多くて…………』
『お互い大変だ。』
『そうだね。』
『で、話ってなに?』
当たり障りのない会話をして
胃に少しのアルコールを流し込み
焼鳥を頬張りながらニノに尋ねた。
『……………俺さ、前の飲み会の時
翔君が言ってた矢野健太くん
聞き覚えがあってさ
ずっと気になってたんだけど…………
彼とは、多分これだ。』
俺の前に一冊の本を出した。
『なにこれ?』
『自費出版の本。
よく見て
ここ。』
と、指差されたとこには
"矢野健太" と書いてある。
『……なに?
これ。』
その本を手にとって頁を捲ってみた。
『俺がまだ学生のとき
今の出版社にバイトしてたんだ。
その時に、彼のお母さんが
「自分の息子の生涯の本を出したい」って
出版社に原稿を持って来たんだ。
俺も読ませてもらった。
でも、採用できず自費出版ってかたちになって。
この主人公が矢野健太くんだった。』
頁を捲って行くと
幼い頃から、小児ガンと闘い
それでも、必死に生きようとした姿が書いてあった。