ほんの少し前まで夏の名残のような
暑さがあったはずなのに
季節はすっかり秋になっている。
朝からシトシト降っていた雨は夕方には止み。
これから一雨ごとに寒さが増し冬に向かう。
一通りの始末をして俺達は学校を出た。
日が沈むのが早くて、
7時頃には辺りは暗闇に覆われた。
鉄筋モルタル5階建ての集合住宅。
そこのH棟の305号室。
一つの棟に入り口が三ヶ所、
階段を挟んで右左に部屋がある。
湿った空気とかび臭い階段を上がると
鉄の重たい扉。
扉に"H 305 田所"と書いてある。
そもそも不思議だった。
俺の勤める高校は、私立で進学校。
そこそこレベルの高い学校で
東大や早稲田などの6大学に進学可能だ。
でも、公立と違ってお金がかかる。
だから、成績がよくても家庭環境によるんだ。
田所の家は言ってはなんだが
それほど裕福ではないと思う。
母一人子一人で、お母さんが一生懸命働いて育ててる。
スーパーマーケットのレジをやって
夕方からは蒲鉾屋とスナックで働いていたはず。
よく「こんな学校に来なきゃよかった。」
「母さんに苦労かけてまで、ここに通う意味があんのかな」と
俺に話してくれた事がある。
授業料を捻出するのが大変だったんだろう。
俺に色々話してくれたけど
考えてみると三年生になってから
俺のところに来なくなってた。
俺は俺で智の事でいっぱいだったから
その事に気も止めてなかった。