玄関を開けると言い争う声がした。
いつもなら「おかえり」と出迎えてくれる智が出てこない。
ちょっと小声で『ただいま』と言って
リビングに向かうと
『…………だからって
なんでそうなるんだよ。』
と、智の怒った声。
智がこんなに声をあらげるなんて初めて聞いた。
『どうしたの?
そんなに大きな声だして』
『あっ……翔くん。
おかえりなさい。』
潤は俺を見てすぐプイッとソッポを向いた。
智が立ってる側に立ち
『どうしたの?』
ってもう一度聞いてみた。
『潤が…………
この家を出て行くって…………』
『え?
どうして?』
『だから、さっき説明したけど
事務所の寮に入るんだって。
そこに入って、本格的にダンスや演技のレッスン受けるんだよ。』
『今までみたいに家から通えばいいでしょ。
通えない距離じゃないんだから。
それに、学校を辞めるって…………
それは絶対、許せないよ。』
智が怒るのも当然だ。
学校を辞めるのは駄目だ。
『なんでもかんでも
いちいち智の許可がいんのかよ。』
と、潤が切れた。
『当たり前だろ。
潤はまだ未成年だし
俺は潤の親なんだからな。』
『あー………
また始まった………
親、親って…………
煩いんだよ。』
『……煩い………って…』
智が「うるさい」と言われて
ショックを受けてるように見えた。
潤も一瞬、「マズった」て顔をしたけど
もう止まらない。
『俺の人生だよ。
俺が生きたいように生きる。
智は俺のことより
翔さんのこと考えてれよ。』
『潤。
もしかして、俺がこの家に入ったから
気を効かせてるのか?
俺がこの家に入って
自分の居場所がないって感じてるんだったら………』
『違うんだ。
違うから………
智が、とか
翔さんが、とかじゃなくて
俺は純粋に、今の仕事をやっていきたいって思ってるんだ。
秋からのドラマも決まっていて
ここに帰るのが遅くなるし
学校はJ関係の子達が通ってる所に編入したいんだ。
今の学校はレベルが高すぎて
ちょっと休むともう取り戻せないんだよ。』
『でも、あの学校は…………』
『わかってる。
わかってるけど………
俺に夢を託すなよ。』
『高校は違うけどちゃんと卒業するから…………
お願い。
俺の一生のお願いだから…………』
『………………考えさせて……………
あと、自分で勝手に決めることだけはしないで。』
『わかった。』
『お前、和には言ったのか?』
俺は和のことも気になって聞いてみた。
潤は黙って首を左右に振った。