『さーてと、何処に行きましょうか?
お姫様。』
と言って、車の助手席のドアを開けてくれた翔くん。
初夏を思わせるほどの温かさ。
太陽に照らされて
手入れされた車はピッカピカ。
黒い塊………
ドアの重み…………
シートの色………
車独特の匂い…………
俺の鼓動がドンドン早くなっていく
手にひどく汗をかいている。
「………の…………のらなきゃ……」
とシートに腰かけてシートベルトを伸ばし
カチャッって装着。
その音に手の震えが止まらない。
冷や汗が滴る。
『……しょ………翔くん………』
運転席に座った翔くんが
俺の様子に気づいて俺の手を握る。
『智………俺ね。
一応、7年 無事故無違反なんだよ。
安心して。
安全運転でいこうね。
それでも、俺と一緒でもやっぱり怖い?』
と、顔を覗き込んだ。
『今、車に慣れるのに必死で…………
ごめん。
まだ、動かないでね。』
「大丈夫。
大丈夫だから。」
と、自分に言い聞かす。
あの日もそうだった。
「安全運転でいこうね。」
ってかーちゃんが、ねーちゃんの旦那さんに言って。
「大丈夫ですよ。
これでも無事故無違反なんですから。」
って笑ってこっちを見たんだ。
俺は、はしゃいで車のなかで
とーちゃんとかーちゃん相手にマジカルバナナやってた。
そしたら旦那さんが
「後ろのトラックなんか変だぞ。」
と言って
俺ととーちゃんが振り向いた
すると大きなトラックが蛇行しながら
あっという間に近づいてきて……………
そこからの記憶がない。
朧気な記憶にあるのは、目の前にある鉄の塊
黒い塊。
人の騒がしい声と潤の泣き声。
そして、火の燃える匂い。
「大丈夫。
安全運転でいこうね。」
って笑った。
大人達の顔
ガタガタ震える俺は自分から車を飛び出し
瞬間、吐いてしまった。