車は海岸線を走り見覚えのある場所を通った。
『あれ?…………ここって…………』
この海は…………
俺と智が溺れた海じゃないか?
あの日は暗かったから回りをよく見てなかったけど
確かにここだ。
海岸に目を向けると
あの日と違う穏やかな海
あの海が俺から智さんを奪ったんだ。
悔しさで俺は自分の股を叩いた。
車はそこから少し山手に入って
一軒の家の前に停まった。
『はい。下りて』
と、二宮さんに促され車から下りた。
門に「大野」の表札を見て
智さんの実家であることに気づいた。
門にあるインターホンで二宮さんが
『あー。おばちゃん。俺。』
と、言うと中から女性が出てきて
『いらっしゃい。
いつも、ありがとうね。』
と、ニコッと笑った。
そして、俺に気づき
『和くん………こちらの人は…………』
と、言って俺を見た。
『智と同じマンションに住んでた人だよ。
あの犬の飼い主の翔さん』
二宮さんが俺を紹介してくれた
名前で呼ぶから
苗字を伏せた方がいいのかわからず
『あっ………翔といます。』
と、名乗った。
『………そうなの………
わざわざ来てくれたの?
ありがとうね。
入って入って。
お父さんちょっと散歩に行ったけど
もうすぐ帰ってくるから。』
『あー……じゃあ
お邪魔します。』
と、二宮さんが入っていって俺も続いた。
家の中はバリアフリーになっていて
車椅子の人がいるみたいだ。
車を止めに行っていた松本さんも入ってきて
俺はリビングのソファーに座ってキョロキョロしてた。
どう言うことだろう
智君のお仏壇に手を合わせろって話なのか?
意味がわからない。
俺に懸けたってなに?
訳のわからないことばかり…………
『翔さんは…………
犬飼ってるんでしょ。
かわいいわね。』
と、お茶を出しながら聞いてきた。
『あー……はい。
"さとし"って言います。』
『そう…………
"さとし"って言うの………
元気なの?』
『……あ……はい。』
うそをついた。
俺は、もう"さとし"と一緒に暮らしてない。
さとしの事を見たくなくて
実家で母が面倒を見てる。