おいらはあの日から眠れない。
潤君が"カウンセリング"を受けろとうるさい。
なんで見ず知らずの人間に、おいらが受けた屈辱を話さなければいけないんだ。
冗談じゃない。
おいらの苦悩や痛みをわかる奴などいない。
二度と思い出したくもない。
なのに夜になると思い出す。
だから………眠れない…………
おいらは、事務所兼アトリエで一心不乱に創作作業を行う。
潤君に言わせると
「なにかが憑依したんじゃねっ?」
と言われるぐらい………寝食忘れて没頭した。
何かをしていないと
おいらが足元から崩れ落ちてしまいそうで恐かった。
絵は、おいらの闇を吐き出す役目をしていたんだと思う。
あの日から2ヶ月、事務所にニノも戻り
表面的には平穏が戻って来た。
「ワンワン……………ワンワン」
自宅マンションの前で、
クルクルと尻尾をちぎれんばかりに振って
犬がおいらにじゃれついてきた。
『こら!やめろって。
ほら……………すみません。』
リードを持った男性が、おいらから犬を離そうと引っ張るのに
おいらの足にしがみついたり
クルクル回ったりしてリードが足に絡み付く。
『ウフフ………お前かわいいなっ。』
じゃれつく犬の頭を撫でながら顔を見ると
フワフワでクリクリの目をしていて超かわいい。
『フフフッ………ふわふわだ。』
しゃがみこんで撫でてると
おいらの顔をペロペロなめだした。
『あっ…!……こら。すみません。』
飼い主が抱き抱えて俺から引き離す。
『かわいいね。名前何て言うの?』
犬の頭を撫でながら聞いてみた。
『"さとし"って言うんです』
『え? "さとし" うふふ…………おんなじだ。
俺も智っていうの』
『………ほんとに………?…』
『なんで "さとし" なの?』
『…う~…なんとなく………
"さとし" って顔してるでしょ。』
『なんだよ。その "さとし" 顔って』
おいらはおかしくて大笑いした。
こんなにおかしくって笑えたのって
どんぐらいぶりだろう…………って思うぐらい
『俺はさ、翔と言います。』
飼い主の彼が名乗った。
『ふ~ん。翔くんか。
……………じゃーね。』
犬の "さとし" の頭をクリッて撫でて行こうとしたら
『あの。俺もここのマンションに住んでるんで
また、お会いしましょう。』
と言って笑った。
おいらはぜんぜん気付いてなかった。
翔くんが、遼のお兄さんだって……………