夢の技術なのか? | Gaydar !

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HIV+です。ゲイです。それ以外の自分って...なあに?(笑)

京都大学の研究チームが"安全なips細胞"を作る技術を発表しました。

すげえやね~。でも ここまでくると さすがに神の領域じゃね?
と思っちゃう。ヒトがやるべきことじゃないよって 手放しで喜ぶ
気になれないんですよね。でも これを待ち望んでいる人たちが 
世界中にはたくさんいるわけですから。
人間のからだのもとになる細胞(ips細胞)を作り 臓器や神経など
の人体構造を再生する それがips細胞による再生医療。
子どものころにはSFでしかなかった発想が現実になろうとしている。
時代って自分の進化とは関係なく進んでいくもんなんですねえ。

で、このips細胞 HIV治療への応用はどうなの?という点が気に
なりますよね。

米国のカリフォルニア大学では 
「iPS細胞由来造血幹細胞からの HIV-1耐性の機能的マクロファージ
の作製」
なんていう かなり興味深いテーマを 現在 研究に加えています。
何ヶ月か前に ドイツの白血病の患者さんが 幹細胞の移植により
HIVウイルスの発生を封じ込めたというニュースがあったけど
あれも治療薬ではなく 再生医療のはなしでした。

今の流れから言うと (薬以外の方法によって)HIVを体内から
なくしたり それに近いレベルでの治療法は 10年先とか
(もしかしてそれ以下の)けっこう近い未来に発見される可能性が
高い、という予測がなされています。
もちろん すぐに実用化されるわけにはいかなくて、安全性の確認に
10年、技術の改良と資金ぐりにやっぱり10年...........
つまりは 現実に降りてくるまでには あと25年くらいはかかるかな?
(ガンになるのでは、という不安は 遺伝子の運び屋をレトロウイルス
からプラスミドに変え、たんぱく質だけを組み込むことで解決する
かも知れないですが、自分の細胞をつかったからといって 拒絶反応
がゼロになるかどうかは まだはっきり分からないそうですから) 

実際のところ HIV治療の現場でも 抗ウイルス薬におまかせ、
といういままでの発想は もはや限界に近づいてきています。
薬の開発って 基礎研究から臨床にいたるまでの段階で
金がかかりすぎるんですね。
そのわりには 最近の抗ウイルス薬はもうかってはいない。
途上国への薬の提供がジェネリックが使われていることもあって、
利益を上げるためにすごく苦労している。かんたんに特許権
(知的財産所有権)を手放すわけにはいかなくて、それでも
途上国との貿易問題やらなにやらで製薬会社自体が抗ウイルス薬
への興味やヤル気を失っている。
政府にしても HIVだけが大問題じゃないしそうそう金をつぎ込んで
はいられない。患者は患者で、耐性を気にしながら一生の間 薬を
飲み続けなければいけない。長期服毒の可能性だってこれからは
大問題になる。長い目でみたらメリットが多い治療方法と言いがたい。 
薬による治療はとりあえずの対策で ベストの選択ではない、
というのが多くの専門家たちの意見の主流となりつつあります。
UNAIDSのシディベさんがさかんに言ってる "Treatment 2.0" 
っていう新時代のエイズ対策は この点を大きな柱にしています。

もちろん 医療の現場で実際に使えるものにするには科学の発展
以外に さまざまな問題点を解決しなくてはなりません。
最大の弱点はお金。これは薬の開発と同じです。
コストを抑える工夫が絶対に必要で すくなくとも患者が負担できる
ような現実的な金額でなければ 一般に普及するはずがない。
日本でいうなら 自立支援医療に乗るレベルにならないと 
大半の人たちにとっては何の役にも立たない。 

ふたつめは 技術が高度になり、倫理の線引きがどんどん難しく
なってきていること。 ここをクリアしないと 大変なことに
なります。
たとえば、現在検討されている臓器の再生技術って 豚のおなかの
中で人間の臓器を作って 人間の体内に戻すという計画なんですね。
こういう現実を 世界中の人々は受け入れることができるのか?
という心配がある。
さらに このips細胞作製の技術を使うと(理論上では)
男でも卵子が、女でも精子が作れてしまいます。
代理母出産の問題どころか ゲイでも子どもがもてる可能性が出て
きて 結婚して夫婦でいることの理由に"子作り"が当てはまらなく
なる。宗教的に考えたばあい、人々はそれを許すだろうか?

一定の利用基準を作って みんながそれを守る仕組みを作るって
簡単そうでいちばん難しい。いったん世の中に出てしまったら 
都合のよい方向に技術を利用するのは 原子力を例に挙げるまでも
なく 実に簡単なことです。

3つめは...... もし仮に 遺伝子治療によって正常な細胞だけしか
作られないという技術ができて その安全性が確かめられ お金の
問題も解決して、倫理的にも問題なしという判断がされ
すべてに対してOKのGOサインが出されたとして.....
この技術がHIVの治療に採用されるかどうか それはまた別の問題
だということ。

個人的には この3番目の理由が いちばんやっかいな気がします。

「宇宙には知的生命体は無数に存在しているはず。
 だとしたら どうして地球にはやってこないのか?」 
「それは地球を訪れる必要性がないからでしょう。
地球に来る途中で もっと文明が発達した ステキな惑星が
あるなら そちらへ行ってしまって 地球には関心を示さない
だろうから」

カール・セーガンという宇宙科学者は、著作「COSMOS」
の中で こんなことを述べています。
HIVについても同じことが言えるんじゃないでしょうか?
関心をもつ人たちが少ないとか、もっと他に優先すべきものがある
のでは と判断する人が多ければ 採用されることはないでしょう。

3月の大震災では多くの方々が被災し、日本人の意識が大きく
変わりました。
公的なお金を使うなら まず被災者に提供しましょうという
考え方が主流になり いまや これに反対を唱える人はいません。
今の日本は 別の地震や津波 その他の災害にいつ襲われても
おかしくない状況で(あまりいい話ではないですが)医療サービス
を受ける人たちの数は この数年の間に さらに増えていくはずです。
将来的なリスクを避けるため あらかじめ必要な資金をプールして
おこうという動きが加速してきていて 近い将来 自立支援医療と
いう制度は 今以上に 大きな足かせとなっていくはずです。

福祉の切捨てはあってはならないけど、みんなが大変な状況にある
のだから 一部の人たちだけが甘えているわけにはいかない。
そう考えると 新しい医療技術の対象にHIVを含ませるには 
なんらかの決め手というか"社会に広くアピールするだけの何か" 
がなければ難しい のではないか、と思えてならないのです。
難病は数え切れないくらいある。
人権を訴えるだけじゃあ もはやダメだよね。

自分の病気や死をどう受け入れていくのか という問題は 
HIVに限らず これから先 もっともっとみんなで考えないと
いけないですね。

僕はできるだけ長生きしたいことを望む人間のひとりですが 
新技術よりは とりあえず 自分の時間を後悔しないような使い方。
そっちのほうが 今は大事。そう思います。