「また講談社のハナシ?」
と敬遠されてしまうのを恐れて(笑)黙っていたのだけれど…
いい時期が来たのではないかと思い、ご紹介させていただきます。
9月上旬に発表された「感染宣告」。
実は、あのノンフィクションが掲載された講談社の新メディア
’G2’(WEB) にリンクが張られているサイト 'G3'に、HIVをテーマにしたまったく別のノンフィクションが掲載されています。
「マリコからの手紙」というタイトルで、著者は安部 結貴(あべ ゆうき)さんという女性ライター。
「感染宣告」とほぼ同時期の9月上旬から連載を開始して、現在は第7回目になるのだけれど。
編集部の説明によれば…
「2008年度の集英社・開高健ノンフィクション賞の選考会において
最終選考の候補になった作品です。
本作品が高い水準をクリアしていることは間違いありません。
でも、この作品は未発表のまま現在に至ります。
本作品は何度か単行本化の機会がありましたが、それが実現せずに、
本誌編集部に原稿が持ち込まれました」
(本文より)とのこと。
安部さんは1992年に旅先のハワイでHIV陽性者の日本人女性、マリコと知り合います。
1992年当時、HIVに感染したということは、いってみたら死刑を宣告されたようなもの。
マリコがなぜHIVに感染したのか、なぜ日本ではなくハワイでひとり身を潜めて暮らしているのか….
過酷なマリコの人生の一部に触れた安部さんは、マリコというひとりの女性の生涯からさまざまなことを学び、それが契機でライターの道を志すようになったのだそうです。
「感染宣告」とは発表の趣旨や執筆の意図も違うし、1990年代からのHIV治療における暗黒の時代と、HIVに感染しても相当な年月の延命ができるほど医療技術が進歩した2009年の現在というそれぞれの時代背景を照らし合わせてみても、いちがいに比較はできないと思います。
ただ、安部さんのノンフィクションは’人の成長’ にテーマを絞っています。
地獄の経験を経て、初めて人間と向き合うことの幸福を知ることのできたマリコ。
そんなマリコの人生に巻き込まれるような形で、自分自身の未来を大きく変えていくことになった著者の安部さん。
作品の内容は個人の好みに関わることなので、「感染宣告」と同様に賛否は分かれるだろうし、描写の甘さが気にかかる方もいるかもしれない。
それでもここには、確かに…二人の女性の、人間としての成長がきちんと刻まれている気がします。
それが「感染宣告」との大きな違いであり、お二方のライターとしての興味の対象の違いなのかなあ、と個人的に感じているのだけれど…
そして、当事者である僕たちの周囲を取り巻く人たちがHIV陽性者をどんな感じで見ているのか、参考にさせられる部分もあります。
かつて、'良いエイズ、悪いエイズ'という表現が使われていた時代があります。
薬害の被害に遭われた血友病患者のHIV陽性者は不可抗力だから気の毒だし仕方がないけど、性感染症としてのHIVポジティブは自業自得でしょ、救済する必要なんてあるの?という論議。
いまでも、こういう意識をもっている人たち...HIVの陽性、陰性を問わず...多いと思うのだけれど。
では、このマリコの場合はどうなんだろ?
善悪って...誰が、どうやって判断するの?
判断できるとしたら、その基準っていったい なに?
単純な二元論で語れない何か。そのことを改めて考えさせられました。
この後、どんな展開になっていくのか…。
日本人女性が、同じ日本人女性のHIV陽性者の現実を描いた作品は、まだそれほど多く発表されていない気がします。その意味でも、とても興味深いものを感じました。
途中、ちょっとだけヘヴィな描写も出てくるけれど….
HIV+をめぐるもうひとつのノンフィクション「マリコからの手紙」。
現在のところ、毎週月曜日に更新されています。
機会があったら、読んでみてください。
(↓下記のリンクからG3サイトに入って本文が読めます)
http://g2.kodansha.co.jp/?cat=7