そんなことは、さておいて、猿渡屋さんは松屋で豚丼を食べるのが好きだった。松屋にある『黒酢ドレッシング』をかけたり、『焼肉ソース』をかけ、味の違いを感じながら豚丼を喰らうのが好きだった。

 いつものように新橋駅近くの松屋で豚丼を喰らう猿渡屋さんは、我が目を疑った。豚丼に覆い被さる肉が【豚の死骸】にしか見えなくなったのだ。

 そうなると、もう止まらなかった。手羽先は惨殺死体に、寿司や唐揚げは肉片に、海老や焼き魚などもってのほかだった。殺害される時の叫び声が聞こえてくるようだった。

 猿渡屋さんは、残酷な妄想とは裏腹に生命の尊さを実感した。自分もいずれ死ぬ。人生は一度きり。そんな当たり前のはずなのにイメージできなかった言葉の意味に戸惑いを覚えた。