グレン王子「風が強くなってきたな」
りえ「……うん」
グレン王子「寒くないか?」
りえ「ううん……。平気」
グレン王子「そっか……」
手を繋いで浜辺にきた私とグレン王子は、言葉少なに夕陽を見つめていた。
(あの夕陽が沈めば……最後のデートが終わってしまう)
そう思うと、言葉が上手に出てこなかった。
グレン王子「今日……本当に楽しかった」
沈黙を打ち破るように、グレン王子が口を開いた。
私はコクリとうなずいた。
そして、彼の言葉を聞き逃さないように耳をすませる。
グレン王子「アンタと出逢った……あの夏の日が最強だと思ってたけど」
「今日も同じくらい、最高に楽しい1日だった」
“私もだよ”
そう伝えたかったけれど、のどが震えて言葉にならなかった。
(……ダメだ。悲しそうな顔をしてたら、決意がにぶる)
私は涙をこらえて、グレン王子に笑顔を向けた。
りえ「これで、家まで送ってくれたら……。普通のデートとして完璧なんだけどね」
私が冗談ぽくそう言うと、グレン王子がフッと笑った。
グレン王子「それで、帰り際にキスしたりするんだろ?」
りえ「キ、キス?」
ささやくように話すグレン王子。
彼の優しい声が耳に滑り込んでくると、体が微かに熱をおびてしまう。
グレン王子「違うの?」
りえ「そう……かも」
私がたどたどしく答えると、グレン王子がふいに立ち止まった。
グレン王子「……」
グレン王子が握る手にそっと力を込め、もう片方の手を私の肩に置いた。
(グレンくん……)
グレン王子のきらめく瞳が、私にそっと近付いてくる。
(えっ……? 本当に?)
グレン王子の甘い吐息が、私の頬を優しくくすぐる。
戸惑いながらも、静かに瞳を閉じかけた時……
グレン王子「……やっぱ、やめた」
りえ「えっ?」
グレン王子「今、キスしたら……きっと、帰りたくなくなるから」
「……だから、キスはしない」
グレン王子は切なげに瞳をふせると、私からそっと手を離した。
(あ……)
急速に温度を失っていく、手のひら。
それが、デートの終わりの合図のような気がして……。
息もできないほどに、胸が苦しくなってしまう。
(グレンくん……)
グレン王子が口元を引き締めて、私を見つめている。
それはまるで、王子の顔に戻ったように見えて、私は少し寂しくなってしまった。
グレン王子「アンタに……まだ、話してないことがある」
グレン王子の言葉を聞き、私の胸が嫌な音を立てた。
りえ「そうなんだ。話してないことって……なに?」
私は平静を装い、グレン王子をそっと見あげた。
グレン王子「国王に……王位継承権かアンタのどっちかを、明後日までに選べって言われた」
りえ「そう……だったんだ」
(そっか……。だから、急にデートしようなんて言ったんだ)
何も聞かなくても、グレン王子の言葉の続きが分かってしまう。
私は大きく深呼吸し、痛む胸にそっと手を置いた。
りえ「……もう、答えは出てるんでしょ?」
グレン王子「……ああ」
グレン王子は静かにうなずくと、夕陽の沈んでいく海を見つめた。
グレン王子「今更、他のヤツに……この国を任せるつもりはない」
グレン王子が潮風に髪をなびかせながら、はっきりと言いきる。
グレン王子「……アンタにも背中を押して貰ったし、最後まで頑張ってみたい」
りえ「そっか、良かった」
私は少し無理して微笑みながら、瞳を閉じてうなずく。
その瞬間、私はこの恋が終わりを告げたことを感じていた。
(ここが……私達の歩く道の終点なんだ)
グレン王子「ごめん……りえ」
辛そうに私の名を呼ぶグレン王子。
こうして呼ばれるのも最後かと思うと、胸が張り裂けそうになる。
りえ「どうして、グレンくんが謝るの?」
「私には、一流のデザイナーになるって夢もあるし」
「本当は、プリンセスなんて……私の器じゃないし。ちょっと、ホッとしてるんだ」
グレン王子「りえ……」
作り笑顔と心にもない言葉。