母親「……ううん。そのことはいいの」
「あんたが電話にすぐ出るってことは、今、ヒマなんでしょ?」
りえ「ま、まあ……」
母親「ここのとこ忙しいから、手伝いに戻ってきてちょうだい」
りえ「えっ? 今から?」
母親「当たり前じゃない。それじゃ、よろしくー」
お母さんは一方的に話をすると、ピッと電話を切ってしまった。
私は携帯を握りしめながら、思わず、苦笑いを浮かべた。
(お母さん……相変わらずだなぁ)
(でも、なんだかホッとした……。それに、私のことを気にしてくれていたんだ)
私は携帯を胸に抱くと、空港の受付カウンターへと向かった。
乗る予定だった飛行機を、キャンセルする為に。
りえと行き違うように、グレンは空港に辿り着いていた。
グレン王子「はぁ、はぁ……」
息を切らしながら、滑走路が見下ろせる窓に駆け寄るグレン。
グレンがその窓にたどり着いた瞬間。
りえが搭乗予定の飛行機が、ゆっくりと離陸していった。
グレン王子「……くそっ」
グレンは吐き捨てるようにつぶやくと、携帯を取り出した。
そして、メモリからりえの名前を呼び出し、通話ボタンを押した。
しかし、彼女が電話に出ることはなかった。
グレン王子「もう、追いかけるなってことかよ……」
グレンは窓に額を押し当てながら、りえが言い残した言葉を思い出していた。
“私には、一流デザイナーになるって夢もあるし”
グレンは瞳をギュッと閉じると、唇を微かに震わせた。
りえ「グレンくんから……電話があったんだ」
タクシーに乗り込んだ私は、あ然とした表情で携帯を見つめていた。
りえ「空港内は騒がしかったから……気付かなかった」
私は大きくため息をつきながら、つぶやいた。
着信履歴に彼の名前があるだけで、嬉しくなってしまう自分がいる。
(グレンくんの声が、聞きたい)
(だけど……今は我慢しなくちゃ)
声を聞くと、決意が揺らいでしまいそうで怖かった。
私は気持ちにふたをして、携帯をカバンに戻した。
ーーりえが城を出て行ってから、3週間が経とうとしていた。
そんな中、グレンはノーブルミッシェルでの定例会合に出席していた。
ピエール「この度は、ジョン・ピエール事務所に衣装の制作をご依頼頂き、感謝しております!」
キース王子「疑惑がようやく晴れて良かったな。ピエール」
ジョシュア王子「盗作などするはずがないと、最初から信じていたがな」
ピエール「ありがとうございます!名誉を挽回する為にも、全力で取り組ませて頂きますわ」
ピエールはサッとお辞儀をすると、グレンの隣に腰をおろした。
グレン王子「……」
ピエールは、自分を真っすぐに見つめているグレンの視線に気付いた。
ピエール「どうかいたしまして? グレン様」
グレン王子「いや、その……」
「アイツ、元気でやってますか?」
ピエール「えっ? アイツって、りえのこと?」
「りえは、オリエンス王国でデザイナーをやってるんだとばっかり」
グレン王子「えっ……?どういうことですか?」
りえ「うーん。ここのデザインが気に入らないな」
「もう少し、装飾を少なめにしよう」
「あっ……。こうすると、アランくんに似あうかも!」
私は自分の声に気付き、デザイン帳に走らせていたペンを止めた。
りえ「……まただ」
そして、小さくため息をこぼした。
(気付けば……いつも、グレンくんかアランくんを、イメージしたデザインになるなぁ)
ーー私がオリエンス城を出てから、1ヶ月が経とうとしていた。
デザインはひらめくものの、それはもう必要のないものばかりだった。
(お城を出て随分経つのに……グレンくんやアランくんのこと、結局、全然忘れられないんだ)
私はデザイン帳を放り出すと、テレビの電源をつけた。
すると、台所からお母さんが顔を覗かせた。