こんにちは

 

当店で扱っている商品のほとんどの衣料にはオリジナル(ビンテージと呼ばれるもの)が存在しております。

 

これから、不定期ですが定番商品でもあるジーンズについて連載していきたいと思います。

まずは、ジーンズ創成期の頃のお話です。

 

18世紀初頭にイギリスの統治から独立を果たした北アメリカ大陸ですが、独立をしてからも、依然としてスペインやカナダ、メキシコに統治されていました。

そこで領土を整えるため西部への移住を促す運動が展開され、馬車に乗った開拓者たちは西を目指しました。
そんな中、1848年の金鉱の発見によって、一攫千金を夢見た人が世界中から大勢、ゴールドラッシュに涌くカリフォルニアに集まり、何万人ものプロスペクター(金鉱を探す者)が丘陵地帯のあらゆる小峡谷や尾根を這いずり回りました。

しかし、金鉱はわずか二年ほどで掘り起こされてしまい、カリフォルニア金鉱は衰退してしまいました。

ほとんどの人は何も見つけられなかった上に帰郷する資金や手段も無かったため鉱山キャンプに留まることしかできませんでした。

そんな中、1858年にネヴァダ州ヴァージニアシティ近郊で銀が発見されました。

カリフォルニアで失敗したプロスペクター達は新しく敷設されたばかりの道路をたどって東へと向かいました。

このシルバーラッシュの噂はすぐに広がりネヴァダ中にある採鉱ブームタウンを人の群れで満たしていきました。

     

(ネヴァダ州ヴァージニアシティ近郊でシルバーラッシュを起こした銀山で働く鉱夫とその家族)

 

また、鉱山や選鉱所での重労働によって作業ズボンは急速に磨耗してしまうため修繕が必要でした。

これに目をつけたごく小数の仕立屋たちも、荷馬車に乗りネヴァダを目指しました。

ジェイコブ・デイヴィスもその1人でした。

彼は、ネヴァダ州のリノに店を構えてテーラー(仕立)業に従事し、サンフランシスコから運ばれてきた既製品では小さくて着れない大きな男達のために、作業ズボンやブラウスを出来るだけ安く特別に仕立てていました。

その店(作業場含め)はとても粗末なもので廃屋を修繕しただけのものでした。

ある日、彼はホースブランケット(防寒用の馬用毛布)を製造するのに使っていたリヴェットを作業ズボンに使うアイディアをひらめきました。

しかし既製品のズボンは生地が薄く、リヴェットを打ち込むと直ぐに解れてきてしまい売り物にはなりませんでした。

研究を重ねリヴェットの小型化と凹凸の間にレザーを挟み込む事で生地へのダメージを防ぐことに成功したジェイコブはリヴェッテドパンツとして売り出しました。

顧客たちはすぐに彼の発明を認め、リヴェッテドパンツの噂を聞きつけた人々はジェイコブの店に押寄せました。

しかし、この町の他の仕立屋たちもこのリヴェット留めしたズボンに目をつけるようになりました。

自分の発明を保護するための資金もないジェイコブは以前から仕事で関係をもっていたリーヴァイ・ストラウスを頼ることにしました。

ジェイコブは1867年にリーバイ・ストラウス社に手紙を書き、このズボンの特許を申請しました。

リーヴァイからの返事は、新しいリヴェッテドパンツの製造を取り仕切る工場長の職をジェイコブに提供し、特許取得について全面的に支援するというものでした。

1873年米合衆国特許庁からリヴェッテドパンツの特許の認可が下りたことにより、この新型のズボンが市場を支配していきました。

 

当初「ウエストオーバーオール」と販売されていたこのズボンは、ベルト通しがなく、サスペンダー用のボタンと、後部にはストラップとバックルがついて絞るような形をしていました。

これがジーンズの原型です。

1890年にリーバイ・ストラウス社が申請したリベットつきパンツの特許がきれると、たくさんの会社で様々なジーンズが作られ、ジーンズの文化はより豊かなものになりました。

当時は主に炭鉱や鉄道などで働く人々のために作られたワークパンツとして使用されていました。

このデニムを使用したウエストオーバーオールは、現在の様なファッション性は皆無で全体的にゆったりとしたシルエットで出来ており、ベルトループが無くサスペンダーで吊るスタイルの物でした。

 

労働者たちは仕事場に着くと、更衣室でウエストオーバーオールに着替え、帰宅時は壁などに吊るしていました。

これは、汚れなどから身体を守るほか、鉱夫達が銀塊をポケットに入れて持ち去る盗難防止にも役立っていました。

        

(ネヴァダの銀山の更衣室。私物の持込は禁止されていたとされている)

             

下の画像は1870年代にリーバイス社が製造したデニムを使用したリヴェッテドパンツでウエストオーバーオールと呼ばれていました。

生地には四つ綾デニム(染めていない緯(よこ)糸1本が経(たて)糸1本の上に重なってから経糸3本の下を潜っていくので生地の片面ではその裏面よりも多くのブルーの糸が見えるようになる)を使用した重量があるものを使用していました。

また、生地の片面により多くの染糸が見えるため、染色しなければならない糸が半分ですむので、インディゴ染料の節約と染色工程のコストも節減できました。

合成インディゴ染料が出回る1897年以前のデニム生地の染料はすべて天然の植物染料で

緯糸が染められていました。

これにより、140年以上たった現在でも緯糸に当時のインディゴブルーが確認できる。

また、白っぽい部分は色落ちではなく、日焼けによるものと思われます。

その証拠に、生地は薄くなくしっかりしています。

 

                (リーバイスヴィンテージ XX 1876年代)

        

        

 

ディテールは腰回り、腿から膝にかけて余裕があり、バックポケットは右のみの片ポケットで、腰にはベルトループの代わりにサスペンダーボタンが付けられています。

かすかに一本針のカモメ(アーキュエイト)ステッチも見えます。

        

 

バックには、腰回りを微調整できるシンチバックが付けられています。

おろしたての生デニムは徐々に縮み身体に馴染むまで時間がかかりますが、この期間の腰回りの調整のために付けられたものです。

現在は、直ぐに水通しをしてから穿く方が多いと思いますが、当時水は大変貴重なものでした。そのため、当時のワーカーは生デニムのまま穿いていました。

        

 

ここまで古い年代のパンツの特徴は似ているものが多いのと資料も残っていないので、年代を推測するのは難しいですが、バックシンチの縫いつけに特徴があるので、そこを見ればわかりやすいです。下の絵は私が描いたものですが、これを見ると上記のデニムパンツは1876年製(タイプ3前期)だと推測できます。

                  

フロントには現在のジーンズよりも大ぶりなポケットになりコインポケットも当時は、懐中時計を仕舞うための物(ウォッチポケットと呼ばれていた)だったので横に大きい作りをしています。

また、ウエストバンドの中部あたりに取り付けられています。

当たり前ですが縫製はすべてピッチの細かいシングル縫製です。

ウエストバンド裏もセルビッジ(ミミ)が使われています。

         

            

ポケットのスレーキ(袋地)はデニムと同じ厚さの生地で出来ており、履き心地というよりは、頑丈さを求めた作りをしています。

また、フロントボタンはメーカーと製造年の刻印の入った豪華なドーナッツボタンが使われています。画像では錆さびでわかりません。

持ち出し部分は全て切りっ放しですが、細かいピッチの縫製のため解れなどはありませんでした。

         

 

初期のリヴェットも銅製でできており、左から「PAT MAY 1873 LS&CO,SF」と刻印されています。

また、馬具のリヴェットを改良したものなので現在のものより一回り大きいです。

    

    

リヴェットの裏側も表と同じ刻印が打たれています。また、補強のためのレザーが挟まれています。

 

    

股部分にはリヴェットが打たれています。これは1930年代のXXまでのディテールですが、注目していただきたいのがリヴェット右側の上端から背後に回りこんだステッチです。

これは、初期のリーバイス社の製造した作業ズボンだけに見られるディテールで通称7(セブン)ステッチと呼ばれています。

 

    

セルヴィッジは平織りで白芯部分が多めの不均等幅の白ミミで、生地の供給元は現代でも判明されていません。(一部はアモースケイグ社の生地を使用している)

裾の処理もシングルステッチです。

 

次は東洋エンタープライズのシュガーケーン・フィクションロマンスから出しているデニムパンツ(レプリカ)を見ていきましょう。

 

    

こちらは、以前発売された11オンスのデニムパンツで当店で扱う商品の中では一番古いディテールのパンツです。

シルエットは太めですが、ディテールは現代ファッションに合わせやすいようにデフォルメされています。

 

    

使いやすいように、サスペンダーボタンの代わりにベルトループが付けられています。

縫製はピッチの細かいオールシングル縫製です。

シンチバックは1875年(タイプ2後期)のものを採用しています。残念ながらバックルは針刺しではありません。

現代衣料でこの再現は難しいようです。

 

    

フロントボタンはトップにフィクションロマンスオリジナルのボタンが使われており、スモールボタンは☆が刻印されたドーナッツボタンが使われています。

 

    

持ち出し部分は切りっ放しではなく、折り込まれています。

洗濯しても解れないので安心ですね。

 

    

フロントのポケットです。

コインポケットにはリヴェットが打たれていません。

大戦の頃のディテールで有名ですが、リヴェットの特許が切れるまでの間はこのようなダブルステッチで補強した物が様々なワークブランドで確認できます。

 

    

リヴェットは手付けの打ち込み式でブランドの刻印もされています。

    

股のリヴェット。

特徴のあるLエルステッチが施される。

リーバイス社以外のワークブランドの作業パンツに見られるディテールです。

 

    

バックポケットはむき出しのリヴェットで、身頃に対して生地の目を横使いしておりポケット口にセルヴィッジを使用している。

ノイシュタッター・ブラザーズ社のボスオブザロードワークパンツに見られるディテールです。

    

    

バックポケット裏のリヴェット、刻印も見られる。

 

    

サイドシームは綾織の青ミミで、裾はシングル縫製です。

 

    

オリジナルのリネンパッチです。

リーバイス社では、No.2デニムやNo.3デニムに使用されていました。(XXは鹿革のパッチ)

それ以外のブランドはこのリネンパッチを多く使用していました。

 

今回、最古のジーンズとフィクションロマンスシリーズを拝見した結果、全くの別物として両者は楽しむべきものであると感じました。

前者のデニムパンツのディテールには興味深いものがあるが、現代には必要とされないもので後者のほうが現代衣料としてのニーズを満たしています。

ヴィンテージは歴史的資料として、レプリカは実用品衣料として、これからもアメリカンカジュアルを楽しんでいきたいと思います。

 

次回は、1900年~1915年代頃のジーンズについて話したいと思います。

 

長文、お付き合いありがとうございました。

 

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