介護の仕事をしていると、「弄便(ろうべん)」という言葉を耳にすることがある。 

読んで字のごとく〈便を弄(もてあそ)ぶ〉、

「認知症の症状の1つ」と学んだ覚えがある。

知識として、頭には残っていたが…

実際に目の前で起こっているのを見たときの衝撃たるや…


実際の話である。


 その日は久しぶりに併設施設のお手伝い。

廊下を歩いていると、便臭が…

「あれ?どこからだろう?」臭いをたどると、ある入居者さんの居室に行き着き、ノックし戸を開けると……


え?…


壁も、床も、シーツも、洗面台の鏡や、蛇口の周辺まで、なにやら茶色に塗りたくられている。臭いが、目にしみる。「ま…まさか…?」頭が真っ白になる。


 話には聞いていたが、実際に目にすると、想像以上の衝撃。 そして、当の本人はというと、

ベッドの上で体育座りをして、ニコニコしている。 その顔の口の周りにも茶色いものがついている。 

食べたのか、拭ったのか―― 

私には皆目見当がつかず…

ただただ、その光景を前に、私はどうしていいのか分からない。

 手慣れたスタッフが入ってきて、

「もうえーまたぁ?」いささかうんざりした感じで、でも慣れた手つきでサッサと片付けを始め、「ここはいいから、フロアよろしく〜」と。いやいや、こんな機会は滅多にないから、フロアをササッと片付けて、便処理参戦。

つくづく〈認知症の奥深さ〉を知った。 


弄便という言葉は知っていた。話にも聞いていた。でも、知識として知っていることと、実際にその場に立つことは、まったく違う。あの日の衝撃は、忘れない。