アルバム巡り番外編VOL.4によせて「名曲の波動」 | 矢野絢子オフィシャルブログ「矢野絢子の生態系観察所(仮)」Powered by アメブロ

アルバム巡り番外編VOL.4によせて「名曲の波動」


アルバム巡り番外編VOL.4「SINGS1」「SINGS2」

 この2枚のアルバムは2016年と2018年にそれぞれリリースした矢野絢子による洋楽の日本語カバー集である。
 トランペット黄啓傑氏、ギター富永寛之氏、うたとピアノ矢野絢子というトリオで「PeterPaul&JUNKO」という名義でリリースした。


 「自分の音楽にしか興味がない」でおなじみのわたくし矢野絢子がなぜカバーアルバムを作ろうと思ったのか、どんなふうに取り組んだのか、その謎についてちょっと振り返ってみよう~。




 いつの間にかミュージシャンたるものになり、色んな所でよく聞かれてきた質問が「どんな音楽好きなの?どんな音楽聴いていた?」のだが、いつも少々気まずい思いをしながら「特にない」と答えてきた。ほんとうにないのである。もしくはその時々で全く違う。

 小・中学校時代に私が触れてきた音楽といえば、夜の音楽番組「トップテン」や「ベストテン」から流れる歌謡曲1色。時々父母が車で流していたフォークソング、母が狂ったように家で掃除するときに爆音で流していたジャズピアノ(のちにキースジャレットと判明)など、雑多で様々な感じ。
 もちろん音楽は大好きだったし、小学時代はカワイ楽器でドリマトーンを習っていて、家でコードをみながら「茶色の小瓶」や「グリーンスリーブス」を弾いては「いいメロディだなあ」などと小学生なりに思っていた。しかし私はどちらかというと児童書でワクワクして物語を読んだり書いたり、古い詩で心震わせたりする、空想好きのへんてこな文学少女よりだった。

 そんな私はボブディランとボブマーリーの違いも、マイケルジャクソンとマイケルジョーダンの違いも(!)よくわからないまま、17歳で「歌とは、自分で作って歌っていいんだ、聴いてもらえるんだ!おもしろい!」を知り没頭。そこから一切世の中で流れている音楽を聴くのをやめ(そもそもそんなに熱心に聴いてはなかったが)、周りのミュージシャンが作る歌を聴き、それに触発されながら自分で歌をかきまくって、今に至る。

 周りのミュージシャンの中には音楽を驚くほどよく知っている人もいたりして「あの○○(ミュージシャン名やバンド名)の××(アルバム名)の▼▼(曲名)てイメージなんだ」とか言ったりしていた。私はそれを宇宙語のようにぼんやり聴きながら、心のどこかで「どうして、わざわざ既に生み出されている誰かの、何かの、真似をしなくちゃいけないんだ」と思っていた。私が聴きたい歌は、私が聴きたい言葉で、メロディで、あたらしく今私が作ればいい。私が作れる範囲の、私から生まれる範囲の音楽でいいじゃん、純度100%しか勝たん、と。
 素晴らしい曲や歌を聴いて(または映画や本や詩、景色や出来事も)、心が震えたら、その震えを私というにんげんを通してもういちど言葉と音にしてアウトプットする、その面白さったらないわ!という感じでオリジナル曲を作っていた(今もそうである)。


 さて、そこで私が出会うのがブルームーンカルテットである。
 ブルームーンカルテットとは日本のインストバンド。先述の黄啓傑(コルネット)、富永寛之(ウクレレ)、木村おうじ純士(スネアドラム)、最初に会ったときはウッドベースに黒川修、(のちに工藤精となる)という編成。
 彼らはジャズを中心に、世界のあらゆる名曲を軽快に演奏する。このブログでも何度も書いていることだが、初めて彼らの生演奏を浴びた時の衝撃は今でも感動とともに生々しくよみがえる。完全に私の知らない音楽の世界だった!!
 彼らの演奏する曲の原曲を私はほとんど知らなかったが、今ここで鳴っている音、それだけで十分だった。それがオリジナルかカバーかなんてどうでもよくて、ただただ「豊かさ」で心が満たされてゆく音楽だった。ほんとうにびっくりした。

 その出会いから、私の猛烈なアタックにより、ライヴやツアー、アルバム制作を彼らとさせてもらう中で色んな音楽の話を聴いたり、教えてもらったりした。彼ら目線で観たり聴いたりすると、それまでと音楽の聴こえ方が変わって面白かった。「メロディ・ハーモニー・リズム」という音楽の一番大切な三大要素を、わかりやすく、色鮮やかに教えてもらった。
 その中でも、今でもグッとくるのが、トランペットのコウさんの発言
 
 「ソロとか基本いらんねん」

 のひとこと。
 ソロパートとは曲の一部の箇所で(歌モノだと間奏とか)自由に演奏する部分。私の解釈は「なんかその時の気分でてきとうに弾くところ」。
 私の勝手なイメージで、ジャズ演奏家って元の曲がわからないくらいメロディを崩して演奏して、それを喜ぶ、というイメージがあったのだが、コウさん曰く「後世に残る名曲やスタンダードは主線のメロディが本当に素晴らしく美しい。それを忠実にちゃんと演奏する、そこが一番大事なのだ。」と。ジャズバンドの花形楽器トランペット吹きのこのひと言は、とても胸に刺さった。

 そんなこんなで世界の名曲に胸を震わせることができるようになったわたくし矢野絢子。そうなるとやはりこれ、歌いたくなるんですねえ。しかもその震えを変換したオリジナル曲を作って歌う、ではなく、その名曲のそのままのメロディを、波動を私の身体と声で表現してみたい!という欲がムラムラ湧いてきた。
 そして、これまでのオリジナル曲でわたしがいちばん大事にしてきた「自分のことば」をのせて。
 そうやって生まれたのが「PeterPaul&JUNKO」。もちろん元祖フォークトリオPeter, Paul and Maryのもじりです。男性2名、女性1名のトリオというだけでの命名ですが、富永さんの自宅で鍋をつつきながら爆笑で決定したような記憶。

 「矢野絢子が歌いたいと思った世界の名曲を矢野絢子が歌詞をかいて3人で演奏してうたう」というシンプルなコンセプト。しかし私的には画期的なチャレンジだった。
 名曲への日本語詩ののせかたは、まず原詩をみて、英語は分からんので色んな訳詞を見比べる。そうか、こんな物語だったのか、と。(訳す人によって表現が少しずつ変わっていておもしろい)
 そして次に、その曲の色んな人の演奏を聴きくらべる。世界の名曲は世界中の名ミュージシャンがカバーをしており、その演奏をいろいろ聴いて、一番ぐっとくる感じの人の歌を何回も聴きながら、そこから感じる雰囲気と、原詩の語る物語と照らし合わせて、自分の言葉に落とし込んでゆく。
 ここまでは結構簡単、というかオリジナルソングをゼロから書くよりも、物語とムードが既に出来上がっているのでそれを自分の言葉にするだけでよい。一番むずかしく、且つこのコンセプトの醍醐味なのが、それをメロディに合わせるところだった。言葉に合わせてメロディを少し変えると簡単なのだが、なるべくそうしたくなかった。なので字数が完全に限られる、さらにメロディの上下やムードに、ぴったりと合う日本語でないといけない。歌うのは自分なので、自分がそのメロディを歌うときにいちばんしっくりくる言葉でありムードである、且つ全体の詩だけ読んでみても、きちんと詩でなくてはならない。
 この作業は本当に没頭出来て楽しかった。結局どの曲も至極シンプルな詩になった。
 ほぼ本家の詩の内容と変わらない内容で出来上がったものもあれば、本家の歌のいいたいところ(と私が感じたところ)を私になりに詩として書きあげたものもある。私の友人のミュージシャンが日本語で書いた素晴らしい詩で歌った曲も収録した。
 これで楽曲は完成。そもそも世界の名曲なのだから、全て名曲揃いなうえに、矢野絢子というオリジナルの言葉のエッセンスが加わり、更に演奏は私が世界で一番好きなバンドの二人である。もう完璧。

 このアルバムでちょっと歌がうまくなった気がする。それまでの「矢野絢子原液100%です」というアルバムづくりと違って、スタンダードという音楽の先祖への敬意と愛を持って歌うことができたから。そしてなにより「主のメロディを正確に歌うことの大切さ」を改めて知れたアルバム。
 なのでこれはただのカバーアルバムではなく、オリジナル楽曲とは違う方法で、私の身体を通って再変換、再構築されたスタンダード音楽なのである。やー、作ってよかった。
 今回の配信はこの2枚の作品全15曲を振り返る。トランペットの黄さんも来てくれる。シマフミもいてくれる。もう完璧。おもしろい新曲もできたので、アンコールでお披露目する予定!みなさまぜひ、絢sRoomに遊びに来てね!


 最後にひとつ、この体験を通して知ったことは。
 有名無名関係なく、「名曲」の発する「波動」(感じ、ムードみたいなもの)って共通したものがあるな、ということ。初めて聴くのにぜんぜん初めての感じがしなくて、スーッと自分の身体の中から立ち上る感情や風景を明確に瞬時に捉えてくれる。ものすごく器が大きくて広いのに、ものすごく限定された小さな小さなたったひとりのじぶんの中の物語や大切な場所を的確についてくる。マクロとミクロと兼ね備えた、宇宙的且つにんげん味の愛の波動。
 オリジナルでもカバーでも、そんな愛の波動をつかんで放てる、ミュージシャンでありたいものです。



 では6/30㈮ツイキャスプレミア配信、絢sRoomで待ってるわ★


↓チケットはこちらから(アーカイブ2週間)

 

 

 

★今回の演奏曲目と絢s.Q(今私はこの曲に何を問いかける?)★

 


1 想い出のワルツ (Tennessee Waltz)
絢s.Q~色褪せない想い出。その中にある「感じ」はどんな「感じ」?~

2 イカれた愛 (Crazy Love) ※詩 中野宏典
絢s.Q~私の中で同等な純粋と狂気とは?~

3 月下恋唄 (Fly Me to the Moon)
絢s.Q~伝わるものと伝わらないものの違いはなに?~

4 涙の河 (Cry Me a River)
絢s.Q~その恋「なに」が「なに」に変わった?~

5 ならず者 (Desperado)
絢s.Q~周りや自分がどんなに変化しても、変わらず見つめ続けられるものは?~

6 素晴らしき世界 (What a Wonderful World)
絢s.Q~この世界はたった今、私に何を映している?~

7 あたしの全てを奪ってよ! (All of Me)
絢s.Q~今度、ふたりでご飯食べにいかない?~

~小休憩~

8 キミのうた (Your Song)※詩 石田衣代
絢s.Q~キミはワタシ、ワタシはキミなら世界はどう見える?~

9 オイラ飛んでゆく (I'll Fly Away)
絢s.Q~死んだら叶うこと、今生きながら叶えられるとしたら?~

10 在りのままに (Let it Be)
絢s.Q~今、今日、この瞬間、私の在りのままとは?~

11 あなたと夜を (Help me make it through the night)
絢s.Q~「他に何もいらない」と思える瞬間は?~

12 ひび割れたハレルヤ (Hallelujah)※一部詩 秋山羊子
絢s.Q~降り注ぐ祝福を受け取る覚悟はできている?~

13 救い (Helpless)
絢s.Q~私は私に、救いの手を求めることが、そして差し出すことができる?~

14 カントリー道路 (Take Me Home, Country Roads) ※詩 フジ子
絢s.Q~心の中の原風景をもういちど歩いてみたら、今何を感じる?~

15 青い月 (Blue Moon)
絢s.Q~私の心にやさしくいつも寄り添ってくれているものはなに?~