ハハひとりコひとり | 矢野絢子オフィシャルブログ「矢野絢子の生態系観察所(仮)」Powered by アメブロ

ハハひとりコひとり

一人息子の王様(12歳)とわたし。

 先日、息子ちんの小学校の卒業式に参加した。コロナの影響で在校生の姿はなく、短めの少し寂しい式だったが、その分先生方が少しでも生徒の思い出に残るようにと趣向をこらす思いやりを感じた。先生方が生徒へまっすぐに最後のメッセージを送る姿は、溢れんばかりの愛情と想いに溢れていて、思わずもらい泣きする場面もあった。先生方に心から「この6年間、息子をまっすぐに見守り育ててくださり、本当にありがとうございました」と思えた、とても心に残るいい式だった。

 赤い髪をしてひとり列席しながら、この6年間を振り返ろうとしたけれど、特別なことは何も思い浮かばない。そうでなくても昨日の記憶すら心もとなく、「思い出す」という行為がとんと苦手な私。過去を思い出すには、自分のホームページのディスコグラフィーを開いて、リリースしたアルバムとそのリリース年を確かめて、収録曲をみて、制作した場所や一緒に作った仲間をみて、でないと正確にその時期のことを思い出せない。

 王様の小学校入学は2014年の4月(だと思う)なので、9thアルバム「Blue」と10thアルバム「君に会えない日」を出すちょうど間くらいの時期だ。

 両作品ともブルームンカルテットに全面的に参加してもらったアルバム。そうだそうだ、彼らと出会って、今まで知らなかった「グッドミュージックを突き詰めつつ、観客とともに気楽に楽しむ」、という衝撃的な文化を知りノックアウトされて、それまでの「オリジナルの音楽に向き合い、ひとりきりでなにかと戦う」、という姿勢から、「なにはともあれ自分自身が音楽になる」、という幸福を目の当たりにし、強烈な憧れを抱いたんだったわ・・・・。

 

 ・・・・というように、「音楽とわたし」を自分の宇宙の中心に据え置いて生き、それ以外にあまりにも無頓着な私を、我が息子は一体どのように受け止め、感じてきたのだろう・・・・などという疑問も実はそんなに感じてないのが事実で、私は人として「見てみて息子氏、人生って自分で切り開けて、こんなに自由で面白いんだぜー!きゃっほー!」という背中を見せつけ、それを否応なく受け止め、おもしろく自由に自分の人生にフィードバックしてくれ!それが私の息子としてこの世に生まれた宿命&特権だい!よかったねえ!・・・という塩梅。息子に対して、殆ど通常の母親としての役割を果たしていないのに、彼の母親として私はいつも自信満々なのである。世の同じくシングルマザーの方たちから石を投げつけられても仕方ないのである。

 

 そんな風な子育て(ほぼしてないので、子付き合い、かしら)ができるのも、すべて両親のおかげである。日々それを痛感してはその幸運と感謝に白目をむいてそのまま気絶して寝てしまいたくなる。

 私の母は私が時々歌で歌っているように、波乱万丈を絵に書いた、しかし私よりもずっとずっと立派な「社会性」「常識」「根性」などを持ち合わせつつ、私よりずっと不器用で、夢見る夢子の天然な女性で、その人生小説にしたら3冊くらい書けるんじゃないの?というような逸材である。

 その母が(今のところ)最後の男に選んだのが今の父、ジイジイトチンで、彼は彼なりに私たちと出会う前に相当な波乱万丈人生をくぐりぬけてきたツワモノの土佐のいごっそうである。

 そんなキワモノの両親と私、そしてむすこの王様が今の私の家族であり、チーム。

 父は酔うと「俺が一番の矢野絢子のファンやき」と恥ずかしげもなく豪語するし、母はブツクサ文句をいいつつも私がデビューしたときなどは40年以上続けた看護師をやめて「マネージャー」でなく「ダメージャー」として全国のツアーに同行してくれ、今でもネットショップの管理などを請け負ってくれながら、ライヴ遠征も嬉々として参加する。

 全員が土佐人であるがゆえ、一筋縄ではいかないし、すれ違えばもう大変である。しかし私は今のこの家族があってこその私の音楽であるし、何より常に誠実に大切にしたいと思う。(そしてそのあまりにものあれにそれを思うとすぐ眠たくなる)

 またこの両親の生活力が二人ともあまりにも高いことをいいことに、ほぼ息子の姉のような感じで暮らしている。早寝早起きは夢のまた夢で、2週間ものツアーに出て帰れば完全に夜型だし、高知にいてもライヴやイベント、曲作り、練習、ツアーの準備やあれこれ(すべて一人でやってるため)を最優先で暮らせている。

 

 だがこの春、そんな自由奔放な私の暮らしに、はじめての試練が訪れた。

 両親が長い旅に出たのである。(死んでないよ!)

 

 たぶんはじめてくらい、ハハひとりコひとりの、長いバケーション。ちょっと絢子!だいじょうぶ?!

 続きはまた次回。

 おやすみなさい。