夕方
彗星のようにサバ医師が現れた
いつも自分の顔をみると
サバ医師は言葉が詰まるのがわかる
きっとガンが思っていたより進んでいたのだなと思うが
『悪いのは全部取ったからね』
術後すぐのサバ医師のこの言葉を
信じている
サバ医師『あ、あのさ···』とカレンダーをみる
自分『明日退院ですね』
サバ医師 『あ、聞いてる?』
自分『あ、はい』
と、いつものように歩きながらサバ医師のドライブスルーならぬサバ医師スルーの回診だ
看護師から
先生に聞いてくださいねと言われていた
確認事項がふたつある
サバ医師の回診が一瞬で終わることがわかっていたのでメモにかいておいた
メモにかいておいたが
サバ医師の顔をみるとなんだかホッとするのと
サバ医師が一瞬で通りすぎるので
聞くことを忘れてしまいそうになる
ハッと気づき
『先生~センセ~』
と、呼び止め
まずひとつ目
生命保険に出す術式の確認をする
用意していた術前の計画書を
サバ医師は嫌な顔ひとつせず
どれどれと覗きこみ
『あぁ、そうそう、乳房切除と腋窩リンパ節郭清ね、コッチに変わったからね』
と軽やかに答え
彗星のごとく去っていこうとした
しかし
自分にはもうひとつ質問があった
『先生~~センセ~~もうひとつ~』
と、声で止める
彗星のようなサバ医師は
今度も全く嫌な顔ひとつせずにまた自分の方に近寄って来てくれる
治療院での治療はやっていいのかの確認だったが
『お腹に関しては全く問題ないけれど
手術したところはね······』
と珍しく少し考えている
そして
『そこの先生が良いと思う治療で良いよ
手術したところをグリグリマッサージとかしないと思うし
その先生のやり方で良いと思うよ
治療院行って良いよ』
と、言い
同室の患者さんには
歩きながら一言だけ声をかけ
0.5秒程の速さで去っていった
本当に彗星のようなサバ医師だった
さ、本を読もう